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My Funny Valentine

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カノはまだ男の子と付き合ったことがなかった。だから、2人の話にたまに乗れないときがあった。フツーの恋愛話なら別によかったが、先週ナオミがHな話を始めた時にエッちゃんまでもが自分の話をし始めて、ついていけなかったカノは「まったく、」と言って聞いていたが、ほんとはその話が早く終わって欲しかった。カノは、自分の話が出来ない自分が2人に対してかっこ悪かった。3人の中で自分が一番なにも知らないことは知っていたが、だからといってそれを2人に開き直るのも嫌だった。カノは自分だって一応性欲はあって本当に好きな人が現れるまで、といって処女を守っているわけでもなく、今は音楽しか興味がないと思っているように2人の前では装っていたが、本当はいまいち怖くて踏み出せなかった。だからまじめなエッちゃんが男の子に積極的だったのがカノは意外だった。
カノがナオミのエロ話に嫌がる素振りをする時、たぶんエッちゃんはカノが本当に嫌がってると思っていると思う。ナオミはカノが嫌がってるのは自分に話を振られたくないからだ、コイツ処女だから話についてこれてないんだって思って、もしかしたらカノが見てない所で笑っているのかもしれない。エッちゃんはそれに気づかないか、気づいていてもエッちゃんなら気づかない振りをして心の中で顔をしかめているのかもしれない。
そんなことを考え出すとカノは、自分の書いた歌詞を2人に見せられなかった。
カノは去年から歌詞を書き始めていたが、まだ誰にも見せたことがなかった。書いていることは2人に言ったことがあった。カノは恥ずかしいから見せたくないと言っていたが、本当は怖くて見せたくなかった。バカにされそうで、何の経験もないくせにこんなの書いちゃって、と思われるような気がして見せるのが嫌だった。
カノが歌詞を書いているノートはリング式なので、前の日に書いた歌詞を次の日に読み返し恥ずかしくなってページごと破ってしまっても見た目はキレイなままで、他の人には破ったページがあることはわからない。でもそれを続けていくと、キレイな白紙のままのノートがだんだん薄くなっていって、最後には中身のない表紙だけのノートだけがカノの手元に残る。そして、なにも書けないまま、なにかを書きたいという気持ちごと捨てることになってしまう。
カノは自分が書いた歌詞に恥ずかしくなるといつも、コケコッコーのことを考えた。彼らが大きな声で歌う青臭い、ニキビだらけの歌詞を思い出した。それはライブ後の彼らの身体から発する汗の匂いと一緒の、男と子供の中間のような生暖かい息吹に満ちていて、そばにいるカノの鼻の奥のほうを鋭く刺激した。
ハダカで歩きたい、と彼らは歌っていた。カッコ悪く生きたい、ワキ毛を剃らないままの君とハダカのままで、どこまでも歩いて行きたい、と歌っていた。モチヅキが書いたというその歌詞を初めて聞いた時、カノは自分のことを歌っているのかと思ってちゃんと処理してるのを思い返したり、モチヅキにワキなんて見せたことないけど、もしかしたらワキ毛が好きなのかもしれないとも考えたが、そんなにまじめに捉えるほどのものでもないと思った。
彼らは背伸びをしていなかった。背伸びしなすぎて、かっこつけなさすぎる彼らがカノには信じられなかった。思ったことをそのまま歌にしているだけの彼らが自分より才能があるかもしれないという考えが頭をよぎると、カノは握っている鉛筆が折れるほど、もどかしかった。
このままだと、そのうち追いつけなくなってしまいそうだった。置いてけぼりにされそうになってアセッてもノートは埋まらない。カノがなにか書いてやろうと思ってもどうでもいい言葉しか思い浮かばなくて、どうでもいい歌詞だと思っていたコケコッコーの言葉がカノの心を掴む日が、そのうち来てしまう。彼らはカノの先を歩いていた。カノはその、彼らのハダカの後ろ姿を見たくなくて、目を背けながら歩いているつもりで気づくと同じ所で足踏みだけをしていた。

ミツドモエにとっての2回目の文化祭の演奏は最悪だった。相変わらずカノたちの後の三年生バンド目当ての客ばかりで、カノたちのバンドが早く終わらないかという顔でクラッカーや紙テープをかまえて最前列に陣取っている上、前のダンスグループが予定時間を過ぎてもまだ踊っていて、さらに朝ケンカしたらしいエッちゃんとナオミの雰囲気も悪かった。
前日に遅くまでスタジオで練習して、それでも満足のいく仕上がりではなかった3人は、あとは各自で練習ということでとりあえず帰ることにしたが、エッちゃんの話ではナオミはその後男の子とどこかに遊びにいっていたらしく、それを自慢げに話したナオミにエッちゃんがキレて言い合いになった。カノが体育館のステージでノリノリで踊るダンスチームを横の袖からイライラして見ていると真剣な顔をしたエッちゃんが、3人で丸くなって手を差し出してオーとか言う、よくミュージシャンたちがライブでステージに出て行く時にやっている、あれをやろうと言い出した。
エッちゃんはこのままではマズイと思いそれを提案したのだが、それはちょっと恥ずかしいなとカノが思った瞬間ナオミが、そんなのダサい、と呟いた。それを聞いたエッちゃんが泣き出し、ああ最悪になってきたな、と思ったカノの耳に、ステージのダンスの終わりを知らせる、客のまばらな拍手が聞こえた。
結局ドラムとベースがバラバラのまま5曲の予定が3曲しかやる時間がなく、最悪の演奏のまま、その年のミツドモエのライブは終わった。

冬休みの前、モチヅキから「渡したいものがある。今日6時、ターニングまで来て欲しい。」というもったいぶったメールを受け取ったカノは、今日6時っていきなり言われても普通前の日かもっと前に言っとくもんなんじゃないんだろうか、別に予定はなかったけど当日言われてもし予定があったらどうするつもりなんだろうかと思ったが、どうせヒマなんだろうと思われてるのかもしれないとも思った。それに渡したいものってなんだろう、誕生日はまだ先だしなにをくれんだか知らないけど、もしなにか渡されてなにか言われるんならひとりで行ったほうがいいのかな、でも、ひとりで、とは書いてなかったしやっぱり誰かと行くかと思いカノは2年になり同じクラスになったエッちゃんに一応聞くと、「エーひとりで行くべきだよ告白されるんじゃないのわたしは別に行ってもいいけど明日から期末だからやっぱりやめとく。」と言われて、そんなことを言われるとドキドキしてきたカノが休み時間にナオミのクラスに行くと「あー、エッちゃんの元カレからメールあったよ。なんかCD作ったんだって、それの記念のライブだって。行くでしょ。」と言われた。ナオミも誘われていたみたいだった。
学校が終わって吉祥寺に向かったカノとナオミは6時までかなり時間があったので北口でお茶しながらしゃべっていて気づいたら6時半を過ぎていて一瞬ヤバいと思ったがアイツらのライブならいつも見てるし別にいいかと思い店を出てそれでもなんとなく早足で駅の反対側にあるライブハウスに向かおうと駅前のロータリーに差しかかった時、ひとつの管楽器の音が聞こえた。
作品名:My Funny Valentine 作家名:MF