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ハヤト

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 私達は北海道の釧路の町に旅行に行くことになりました。私達はそこで火を扱う祭事を観ました。昔からアイヌの人々は大地にも水にも草木にもすべてのものに神様が宿っていると信じていたのです。もちろん火にも神様が宿っており、火の神はとても位の高い神として崇められています。
 アイヌの人々が暮らしたチセ(アイヌの家)の中央には囲炉裏端があり、その熱は床や壁を伝わって、とても理にかなった暖房になっていたそうです。だから厳寒の冬でも子供たちは凍えることなく成長できました。アイヌの人々は日を尊び、火に感謝する事を忘れません。
 彼は火を見ながら私に、
「また明日、日本を発ったら忙しくなる」
「うん」
「でも日本にまた帰ってきたとき、こうしてゆっくり日本各地の祭りに参加しよう」
「いいわね」
「パスポート来年は更新しなきゃな」
「今年、東京に戻った時でいいんじゃない?」
「ああそうだな」
「今度帰国した時はどこに行きたい?」
「まあまず、近場かな。箱根でしらす丼でも食べたいな。鳥取や山口の方にも行きたいし、ゆっくり考えればいいさ」
 私達はそんな自然な言葉のやり取りをし、しばらく火を眺めていました。
 穏やかなあのハイハイをした赤ん坊を見た時の様な、安心した空間が私達の中にありました。
 彼も心地よい空間を味わっていると思いました。
 その時です。突然、彼がひざまずき、ハアハア息をするのです。彼は倒れこみ横になって咳をしました。ひどい咳です。彼は手で口を押え必死に咳をするのです。
 その手の中に血が見えました。
「吐血してるぞ」
 誰かが大声で叫びました。
「119番だ」
 私は今おかれている状況を受け入れるゆとりもないままただ、
「ハヤト、ハヤト」と叫びました。
釧路赤十字病院に着き、彼が救急室に運ばれ、また個室の部屋に運ばれ私が医師から告げられた残酷な言葉は、彼は今晩がやまだという宣告です。
作品名:ハヤト 作家名:松橋健一