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ハヤト

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十月の初旬、私達は久しぶりに帰国しました。東京の吉祥寺、私達の育った街にやってきました。お互い実家はありましたが、二人でホテルに泊まりました。せっかく日本に帰ってきたのだから、二人で過ごしたかったのです。彼もしばらく仕事の事は忘れて、小学校からなじみのこの吉祥寺の街を二人で歩きました。道端の掲示板に張り紙がありました。私達が卒業した小学校の運動会の張り紙です。明日ちょうど暇だから行こうと彼が提案しました。なんだかわくわくして私も賛成しました。
ホテルで二人で裸で抱き合いました。何かを忘れるかの様、努めてきつく抱き合いました。私達の汗と汗がコシャーワインにでも変わっているかのように甘く、熱く抱き合いました。
次の日運動会に私達は向かいました。シートを敷いて二人で運動会を見ていました。本当に平和な心地でした。ピストルが鳴り、子供達や父兄が歓声を上げ、私達はその歓声を木漏れ日のように感じていました。
彼と一緒に当たる陽だまりは、湖畔の安らぎにも似ていました。
そこを小さな赤ん坊がハイハイしてきました。
そのとても可愛い赤ん坊は決して人見知りせず、私達の間に入ってくるのです。二人で子供に笑いかけると赤ん坊も笑います。何だか二人の間に子供ができた様な錯覚を起こしました。

 安らぎこそが幸せでした。

「すいません」とその子供の母親がやってきて赤ん坊はいなくなってしまいましたが、私達はただただほころんでいました。二人でしばらく笑っていました。
 本当に本当に優しい穏やかな運動会を私達は過ごしました。
作品名:ハヤト 作家名:松橋健一