ハヤト
「カンナ、今からどうも俺に似つかわしくない事を言うけど、俺の精いっぱいの声を聴いてくれないか」
「うん」
「俺はもうすぐこの世からなくなる。ゴホッ。ゴホッ。そしてカンナ。お前は一人で生きていく。でもずっと一人じゃない」
ハヤトは続けた。
「いいか。よく聞け。お前は俺とまた別の人と出会う。とてもいい人だ。その人と恋に落ち二人は結婚する。そしてきっと子供が生まれる。お前はその子供にたっぷりの愛情を注ぐ。ゴホッ。夜は寝付くまで子守をし、泣いた時はすぐに駆けつけ、あやしてあげる。
歩ける様になれば、太陽の光が注ぐ公園で散歩をし、頑張って歩いたご褒美に抱き上げキスをする。夜になったら絵本を聴かせてあげ、眠ったらそっと電気を消して離れてあげる。プールに連れて行ってあげ、夜はよく煮込んだミネソタスープを、ふうふうして食べさせてあげる。学校に行ったら子供が目を輝かせて話す、学校での話を、よく聴いてあげる。家族で一緒に食事をする。笑いの絶えない家庭だ。毎日心温まる家庭。みんなで近場に旅行に行ってキャンプをして子供にいろんな事を教えてあげる。空気がきれいな所は星はこんなにも綺麗に輝くのだという事を子供と一緒に発見する。子供が中学になっても、高校になっても、大学に行っても、愛情を注ぎ、自立できるように陰で見守る」
「ゴホッゴホッ、カンナお前ならできるはずだ」
「私ハヤトとの間に子供が欲しい」
「それは無理な話だ」
「でもね。私こないの。生理がこないの。そして測ったら陽性って出たの。ハヤトとの間の子供よ」
「避妊したんじゃないのか。おろすんだ。明日にでも病院に行っておろすんだ」
「私おろさない。そんなことする位なら自殺する」
「馬鹿な事を」