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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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海に降る雪

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 まるで子どものようにはしゃぎながら次々と足跡をつけていく。
 それから、雪をすくうと空に放った。
 きらきらと舞う雪が、少女の赤いコートに宝石のようにまとわりついていく。

「えい」
 突然、少女は雪をつかむとわたしに投げてきた。
「冷たい。やったな」
 わたしは少女をつかまえようとしたが、少女はぱっと飛び退いた。
「きゃ」
 けれど、なれない雪に足をとられ、バランスを崩した。
「つかまえた」
 わたしは彼女を支えようと腕をつかんだが、同じく足を取られ、一緒に倒れてしまった。
 なおも少女はふざけてわたしに雪をかける。
「お返しだ」
 やわらかな雪の上、ふたりで転げ回った。
 雪にまみれたお互いを見て吹き出した。
「くしゅん」
 少女がくしゃみをした。
 わたしは少女を胸に引き寄せた。髪もほおも、重ねた唇も冷え切っていた。


「生き返ったぁ」
 少女が露天風呂から戻ってきた。浴衣に着替え、髪を束ねて結い上げた少女はいくらか大人びて見える。
「のぼせなかった?」
 わたしはとっくに出てきていたのに、少女はずいぶん長く風呂にいた。のぼせて倒れでもしていたらたいへんだと心配していた。
「一人だったから気持ちよくて、泳いじゃった」
 無邪気な笑顔にはまだ子どものようなあどけなさが残る。
「夕食までまだ時間があるね。ゲームでもやってくるかい?」
「ううん。ここにいる。先生とふたりがいい」
 そう言って、少女は窓を開け、さきほどふたりではしゃぎ回った裏山を眺めた。
 日は西に傾きはじめている。
 真っ青だった空がうっすらと赤みを帯びて、雪景色を染めていた。

「東京へはいつ発つの?」
「はっきり決めてないけど、ここから帰ったらすぐに荷造りしなくちゃ」
 少女は東京へ行く。専門学校へ通うために。
 アパートで一人暮らしをするという。
「時々、遊びに来てね。先生」
「……まさか」
 言われなくても……行きたいと口にしてしまいそうだった。

 わかっている。
 わたしが今の気持ちのまま彼女のアパートに行ったりしたら……。

「わたし、この旅行のこと、一生忘れない。ありがとうね。先生」
 少女は涙ぐんでわたしを見つめた。

 そうだ。
 ふたりとも、これが最初で最後だと暗黙の了解でやってきた。
 おそらく、この思いを互いの心の奥底に秘めながら、この先生きていくのだ。

作品名:海に降る雪 作家名:せき あゆみ