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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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海に降る雪

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 小さな息づかいが耳に心地よい。
 いつの間にか、わたしも夢の中へはいっていった。

「わあ、すてき。起きて。先生!」
 少女の弾んだ声に目を覚ました。
 いつの間にか朝になっていた。まわりは白銀の世界だ。
 少女は窓から見える景色に目を輝かせている。
「本当に来たのね。雪を見に……」
 その笑顔を見て、辺りもはばからず抱きしめたくなったが、さすがにこらえた。

 スキー客と一緒に降りて、駅前の食堂で朝食をとった。
「これから先はバスで行くよ」
「遠いの?」
「ちょっとね。でも雪景色は圧巻だよ」
 スキー客でごった返す山など見ても、雪を見た感動などない。
 ひなびた山奥の温泉宿で静かに見るのがいい。

 バスに揺られて三時間ほど。山奥の温泉町に着いた。

 ふるさとの雪はきらいだったのに、なぜかこの町の雪は好きだった。
 学生時代、友人と一緒にやってきて以来この町の雪景色に惹かれて、何度か訪れていた。
 それも春が近づく頃に決まって。

「まあ、佐伯さん。ようこそいらっしゃいませ」
「女将、またお世話になります」
「そちらの方は?」
「あ、妹です」
 彼女のことをなんと紹介しようと迷っていたが、思わず妹だと口をついて出てきた。
 少女は目を丸くして、それから笑った。

 部屋へ通されてから、少女はわたしに尋ねた。
「奥さんと来たことは?」
「いや。友だちとしか来たことはないんだ」
 そういえば、なぜか妻とは来ていなかった。
「ビックリしたわ。妹だなんて。よくとっさにそんな嘘が言えたものだわ」
 少女は呆れた顔をしながら、お茶を入れてくれた。
「それに、行き先が決まってないっていったけど、ちゃんと予約していたのね」
「まあね」
 お茶をすすりながらわたしは悪びれもせず答えた。
「疲れたろう? 露天風呂でもはいってくる?」
「まだ、いい……」
 おもむろに少女は窓の障子を開けた。
「わあ」
 うれしそうな声をあげると、窓を開け放った。
 雪に埋もれた裏山が見える。人の入ったあとのない真っ白な雪肌が太陽に輝いていた。
「きれい。行ってみたい」
 言うが早いか、少女はコートを手に部屋を飛び出した。
 急いであとを追う。

 旅館の裏手にあるなだらかな斜面に、少女は新しい足跡をつけた。
 はじめはそうっと。
 次にはしっかりと。
作品名:海に降る雪 作家名:せき あゆみ