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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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海に降る雪

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 わたしはそんな彼女をおもしろがるうちに、好意をもつようになっていたのかもしれない。

 少女がわたしを意識しはじめたのも、例の感想文の一件以来だったように思う。
 実際、彼女がわたしと話すようになったのもその頃からだった。

 少女が三年になったとき、わたしは別のクラスの担任になった。
 相変わらず、放課後は文芸部にやってきては詩を書いたり、機関誌用の挿絵を描いたりしていた。
 彼女の笑顔はまわりの雰囲気を和ませ、友人からだけでなく後輩たちからも慕われていた。


 ──雪は好きよ。きれいだから。先生は?
 ──あまり好きじゃない。
 ──なぜ?
 ──雪ばかりのなかで育ったからかな……


 初めてこの町に来たとき、冬の空の青さに驚いたものだった。
 どこまでも澄んだ真っ青な空と海。
 足を伸ばして岬まで行き、その景色の美しさを一目で好きになり、休日には必ず散歩するようになった。

 小説家になろうと決めたのはいつだったか。
 暗く重苦しいふるさとから逃れたくて、生活のために教職の道を選んだ。
 大学の時に知り合った妻は、ずっとわたしを応援してくれている。わたしの一番の理解者だ。
 それでも、なぜか心の隙間にむなしい風が吹くことがあった。

 そんなときだった。少女と出会ったのは。


 ──そう。雪国の大変さってわたしは知らないものね。
 ──たまに降るからロマンチックに感じるんだよ。


 もしかしたら、わたしの少女への思いも日常からの逃避なのかもしれなかった。
 まだ18歳の少女が30近い男に恋するのも……。

「ちょっとどきどきするわ。誰かに見られてないかしら」
 少女は車内を見回した。幸い、わたしたちの乗っている車両には誰もいない。
 少女の手を握り、聞いてみる。
「後悔……しない?」
 少女は大きく頭を振った。
「悪いようにはしないでしょ」

 まいった。
 これほどまでにわたしを信頼してくれているのか──

 心がざわめく。
 まるで恋を知ったばかりの少年のように。
 こんな思いは初めてだった。

 

 夜行列車に乗り換えて、北へ向かう。
「どこへ?」
「とりあえず、北」
 休日に最期のスキーを楽しもうと乗ってくる客が割と多かったが、ふたり並んで座席に座ることができた。
 夜も更けてくると、少女はわたしの肩にもたれかかって眠った。
作品名:海に降る雪 作家名:せき あゆみ