海に降る雪
「隣に座っていい?」
「顔が見えないよ」
「いいの。こうしていたいから」
と、少女は隣に座るとわたしの肩に頭をもたれかけてきた。
思わず少女の手を握りしめる。
少女はうるんだ大きな瞳でわたしを見上げた。
愛くるしいほおを指でそっとふれる。
駅を離れた電車は更に加速する。
もう、この恋は止まらない。
──奥さんにはなんて?
──出張……かな……
──悪いんだぁ
わたしを嫌っていたはずの少女の態度が和らいだのは、夏休みが終わってからだった。
宿題に出した読書感想文で、彼女の出来がよかったことをクラスで発表した。
彼女はきょとんとした顔でわたしを見ていたが、わたしはかまわず彼女の文章のすばらしさを褒めた。
するとその日の放課後、彼女の友人であり、わたしが顧問をしている文芸部の部長から彼女がお礼を言っていたと伝えられた。
自分で言えないところが、まだ素直じゃないんだ……わたしは小さく笑った。
──わたし、行ってもいい? 一緒に……
── ……
──ずるい。いいって言ってくれないで。
「来ないと思った?」
「半々かな。やっぱり女の子が外泊なんて……」
「うっふっふ。うちの親、わたしのこと信頼してくれてるから」
「そんなご両親の信頼を裏切るようなことをするんだ?」
少女は肩をすぼめ、ぺろっと舌を出した。
たしかに罪なことだ。
わたしがこれからしようとすることは、いや、すでにしてしまっている。
少女と一緒に旅に出るなんて。
一緒に行こう──とは言えなかった。
だから、遠回しに言った。
少女はそれに応じてくれた。
──わたし、金曜日の夜、終電に乗るわ。雪を見に行くの。
少女に惹かれるようになったのはいつからだったろうか。
そっけないそぶりをしていた最初からだったのかもしれない。
いつの間にか文芸部に入り浸るようになり、自然、わたしとの会話も増えた。
まわりの生徒たちとは一風変わっていて、少女は好奇心に満ちあふれていた。
少女は花屋の店先の花から、雑草に至るまで花の名前をたくさん知っていた。
けれど育てるのは苦手だという。
「わたしには緑の指がないのよ」
などとうそぶく。
かと思うと、きらいだと言いながら、ジョロウグモの色の美しさを賛美したり……。