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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 10

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穏やかにそう紡ぐ旭を不審に思ったのか、武長は笑みをひっこめた。目が鋭い光を放ってくる。

「それが、過去のことをネタに脅しをかけてきたきみの言うことかい?家族や警察にもばらすとかって…そういうつもりかな」

こいつは犯罪者だ。旭だけでない。他にもたくさん被害者がいるのだ。一弥と芽衣が、きちんと調べていた。

「そういうつもりだったら、あなたはどうするの」
「どうもこうも…そんなの何の証拠もないことだからなあ」

平然と言ってのけるけだものを前に、旭は必死にこらえる。

「…反省もない。謝罪もないんだね」

そんなものをこの男になど求めていなかったけれど、それでもやはり失望はした。

「きみだって、喜んでいたじゃないか」
「……え?」

がんがんがん、と頭の中に音が響く。視界が回りだす。

「きみがこの家を追い出されずに済んだのは、そういう意味で利用価値があったからだろう?感謝されてもいいくらいだ」

頭が真っ白になる。
喜んでいた?感謝?
あのおぞましい行為を、それによって生きながらえた自分のことを、そんなふうに言うのか?

「…もう一度、言ってみろ…」

取り出したナイフを武長に向ける。武長はたじろいだように笑みを消した。声が震えているのが自分でもわかる。ぶるぶると、手も震えている。恐怖じゃない。怒りでだった。

…殺してやる。

こいつを、絶対に殺してやる!

叫び声がする、己の胸の内から。激しい怒りが指先にまで行き渡り、旭は絶叫した。


作品名:慟哭の箱 10 作家名:ひなた眞白