【創作】「咎人の系譜」
「あんた達、何者なんだ?」
「家族だよ」
いきなりの言葉に、耕太は目を丸くする。ラズールはにこにこしながら「僕とルイはね」と付け加えた。
「ああ、そうか。いや、そういうことじゃなくて」
耕太が苦笑していると、ラズールから君はどうなのかと聞かれる。
「君の家族。奥さんと子供がいるね。両親、兄弟姉妹はどうしてる?」
「ああ、両親はもう亡くなってる。兄弟達は・・・・・・」
ぼんやりと、夢のことを思い出した。ラズールに促され、耕太は自身の身の上を話す。幼い頃に家族を亡くしたこと。養父母に育てられたこと、全く覚えていないのに、何故か夢に見る・・・・・・。
「鬼の仕業なのかい?」
ラズールに聞かれ、耕太はぎょっとして身を固くした。
「君の家族を殺したのと、今回現れたのは、同じ鬼なのかな」
「まさか」
ラズールの言葉を即座に否定する。そんなことがあるわけない。家族は押し込みに入られて殺されたのだ。養父母からそう聞いているし、疑う理由はない。鬼の仕業だなど、馬鹿馬鹿しい。妙な夢は、誰かに聞いた怪談の影響だろう。
だが、ラズールに見つめ返されると、胸中に不安が沸き起こった。ルイの描く奇妙な模様、突如現れた大石、首を食われた鶏・・・・・・。
ラズールが、耕太を見つめながらゆっくりと口を開く。
「そう、鬼の仕業だなんて、馬鹿な話だよ。ただの迷信さ。気に病むことはない。僕らのしていることだって、くだらない茶番かもしれないよ?」
耕太は笑い飛ばそうとしたが、口の中が乾いて言葉が出てこなかった。ラズールのくすんだ髪、曲がった角。突如現れた異人と鬼の騒動。
「・・・・・・鬼を払いにきたんじゃないのか?」
「嘘かもよ?」
くすくす笑うラズール。耕太はぐっと拳を握りしめると、吐き出すように呟いた。
「・・・・・・怖いんだ。鬼が、近くにいるような、気がして」
耕太の目にじわりと涙が浮かぶ。夢に見た惨状が、なつと子供達の姿に重なった。
「・・・・・・守りたいんだ、家族を」
「君の家族は誰なんだい?」
ラズールの問いかけに、耕太は眉をひそめる。目尻を拭いながら、「なつと子供達だ」と答えた。ラズールは何故か、ふーんと気の抜けた声を発し、
「うん、分かった。全員助けるから、安心していいよ」
拍子抜けするほど、あっさり言い切った。
耕太は戸惑い、目をしばたたかせてラズールを見る。
「えっ? な」
「これは嘘じゃないから大丈夫。さ、家に戻りな。そろそろ奥さんが心配する頃だよ」
ラズールに促され、耕太は日が大分高くなっていることに気づいた。いい加減戻らないと、なつにどやされることだろう。
耕太は手短に別れを告げると、ラズールに背を向けて駆けだした。
ルイは、慌てて駆けていく耕太の後ろ姿を見送る。
へらへら笑っているラズールに、「耕太が羨ましい」と呟いた。
「養子とはいえ、親がいて。奥さんと子供がいて。家族と暮らしてきて、これからも家族といられる」
ルイはラズールを見上げる。目の前の男は、相変わらずつかみどころがない。悪魔が神社に出入りしていいのだろうか。こいつに神罰がくだったら笑えるのに。
今度は、何を見返りに求めるつもりだろうか。「時間」を差し出したことを後悔しているわけではないが、耕太は結婚して子供もいるのに。
「何で、あたしが売られたんだろう」
「娘だからじゃないかな」
「男だったら、売られなかった?」
「鬼は男だけど、売られたね」
その言葉に、ルイはふんっと鼻を鳴らした。ラズールの語る昔話。嘆きから堕ちた鬼と、もはや記憶にない過去から呪われる家系。
「・・・・・・どっちに同情すべきか、分からなくなりそう」
苦笑を漏らしながら、ルイはくるりと向きを変えた。
「儀式の準備するから。手伝って」
「僕は、ルイに同情するよ」
「あ?」
ルイが睨みつけると、ラズールは肩を竦めて「仰せのままに」と言った。
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ