【創作】「咎人の系譜」
翌朝、村の真ん中に、巨大な石が割れた状態で放置されていた。村人達は石を取り囲み、こんな大きな石、鬼が運んできたのだろうと囁きあう。この力で襲いかかられたらひとたまりもないと、重苦しい空気が漂った。
なつと子供達を家に置いて、石を見に来た耕太。昨日ラズールが言っていた「鬼が苛立つだろう」とは、このことだろうかと考える。
ルイとラズールがやってきて、周囲の視線が一斉に集まった。
「他に被害は?」
ルイの言葉に、今度は互いの顔を見合わせた。確かに割れた石が転がっているだけで、家畜にも畑にも荒らされた様子はなかった。ルイが鬼の仕業だと告げるとあちこちで悲鳴のような声があがる。だが、ルイは落ち着き払った様子で、心配することはないと続けた。
「こちらを脅しているだけ。あなた達に手は出せないから、安心してください。昨日描いた模様は消さないように。何かあったら、ラズールに言って。それじゃ、準備があるので」
ルイはぶっきらぼうに告げると、さっさと立ち去る。残ったラズールはにこにこ笑いながら、石はどうするか聞いてきた。
「触っても大丈夫ですよ。ただの石だから。割れてる分、動かしやすいかもしれない」
ラズールに言われて我に返ったのか、村人達は石をどかす算段を始める。言い出した当人は、素知らぬ顔で輪からはずれた。
耕太も村人達から離れ、のんびりと神社に向かうラズールを追う。
神社の境内に、人影はない。のんびりと歩を進めるラズールに追いつき、耕太はその背に声をかけた。
「おや、君もさぼりかい? 僕も力仕事は性に合わなくてね」
やれやれと頭を振るラズールに、耕太はふふっと笑いを漏らす。
「昨日は、被害に遭わなかったようだ。ありがとう」
「どういたしまして。ただの偶然かもしれないよ?」
予想外の返答に、耕太はぽかんとしてラズールを見返した。くすんだ髪の男は小さく笑うと、
「なんてね。ルイに怒られるから、今のは聞かなかったことにして。ふざけたくなるのは、僕の悪い癖だ」
「・・・・・・あんた、信用できるのか?」
耕太が胡散臭げに眺めると、ラズールは肩を竦める。
「いいや。僕は信用したらいけない。嘘つきだからね。でも、ルイは正直者だ。彼女は信じていいよ」
「嘘つきのあんたが言ってもな」
「確かにねえ」
へらへら笑うラズールに、耕太は、異人とは身なりだけでなく人柄も珍妙なのだなと、改めて納得する。それでも、偶然であんな石が転がるとは思えないし、被害が出なかったのは結構なことだ。
ラズールのふざけた態度が、逆に取っつき安さを感じさせる。ぶっきらぼうな少女のルイより、彼の方が話しやすそうだ。
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ