【創作】「咎人の系譜」
その日、村ではちょっとした騒ぎが持ち上がる。
海から遠く離れたこの場所に、異人が二人も現れたのだ。
青年と少女。奇妙な取り合わせの一行は、長老の元へ通される。村中の人間が、何事かと周囲を取り囲んだ。耕太となつも、異人を一目見ようと、野次馬に混じる。
「ねえ、あの女の子、耕太に似てる」
なつの不思議そうな言葉を、耕太は「馬鹿なことを」と一蹴した。確かに少女の方は、顔立ちが異人らしく見えない。だが、連れの男は奇妙にくすんだ色の髪と目の色をして、明らかに異質な空気をまとっていた。あんな者たちと縁があるはずもない。
少女はルイと名乗り、後ろの男はラズールだと紹介した。ルイはまず騒がせたことを詫び、自分達の用件を切り出す。
「鬼が、この村を狙っています。放っておけば、村人に被害が出始めるでしょう」
ルイの単刀直入な物言いに、村人はざわめいた。漠然とした不安が、突如形をもって現れたかのようで。
自分達がその鬼を退治するから、それまで村に滞在する許可が欲しいと続けるルイ。周囲は顔を見合わせ、ざわざわひそひそと言葉をかわした。
皆の思いを代弁したのはやはり長老で、しなびた手をあげて皆を鎮めると、しゃがれた声で話し出す。
「申し出は大変ありがたいですが、見ての通り貧しい村でして。十分なお礼をすることも」
「礼などいりません。もてなしも結構。鬼を退治するのは、個人的な事情ですから。ただ、終わるまで私達がいることを漏らさないで欲しいのです。余計なやっかいごとを引き起こしますから」
長老の言葉を遮り、ルイはきっぱりと言った。さざ波のようにざわめきが広がり、半信半疑の空気が流れる。そこに石を投げ込むように、呑気な声が響いた。
「見てもらったほうが早いんじゃないかなあ」
全員の視線が、くすんだ髪の男に集まる。ルイは眉をひそめて、「ラズール、口を挟まないで」と言った。ラズールは気にした様子もなく、
「とりあえずの被害をなくしてあげないと、もっと貧しい暮らしになるんじゃないのかい? どうせ本番まで時間がかかるんだから、準備運動だと思ってさ」
その言葉に、ざわめきが一段と大きくなる。
「そ、そうだ。俺んとこの鶏までやられたらたまんねえ」
「畑に手を出されたら、取り返しがつかねえぞ」
「爺様、そいつらに任せてみたら」
村人達の声に押されて、長老が頷いた。
「お願いできますでしょうか。これ以上やられたら、明日食べるものにも困る有様で」
「お安いご用ですよ」
ラズールが軽い調子で引き受け、ルイに睨まれる。だが、当人は気にする様子もなく、へらりと笑った。
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ