【創作】「咎人の系譜」
日差しが、満遍なく畑に降り注ぐ。
耕太は鍬を振る手を止めて、額の汗を拭った。女房のなつに、そろそろ昼飯にしようと声をかける。
赤子の頃に家族を亡くした耕太にとって、なつと三人の子供達はかけがえのない宝だった。
家に帰れば、子供達がまとわりついてくる。今は亡き養父母の位牌に手を合わせてから、耕太はなつや子供達と飯をかき込むときが、一番幸せだった。
「もーらいー!」
「だめー! あたしのー!」
「こら、ちゃんと座って!!」
はしゃぐ子供らとなつのたしなめる声。耕太は顔をほころばせながら、汁椀を手に取った。
「ラズール、これから何処に行くの?」
ルイは傍らの悪魔に声をかける。眼前に広がる海は、穏やかな白波を運んでいた。
ラズールと名乗った悪魔は、くすんだ色の髪に帽子を乗せている。こめかみから生える曲がった角が、帽子のつばに隠れていた。
「さて、ルイはどうしたい?」
その問いかけに、ルイはわざとらしく溜め息をついて、そっぽを向く。
「あんたにお願いすると、代償を払わされるからやだ」
「酷いな。僕だって、そう何でもかんでも要求しないよ」
ラズールが悲しげに首を振った。ルイは皮肉な笑いを浮かべ、どうだかと呟く。
あの屋敷から逃げ出すとき、手助けの礼として「時間」を要求された。それ以来、ルイは年を取ることがない。睡眠も休憩も食事も必要としない、人形のような自分。
恨んでいる訳ではないが、次は何を要求されるのだろう。自分には、差し出す何かが残っているのだろうか。
差し出すものがなくなったら、ラズールは消えてしまうのだろうか。
ラズールは帽子を脱いで、ルイの顔をパタパタ仰ぐ。
「海の向こうに行ってみる?」
「帽子被れ」
「いいじゃないか、誰も気にしないよ」
「あたしが気になるの」
「すぐに慣れるさ」
ルイは苛々と舌打ちしながら、ラズールを睨みつけた。
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ