【創作】「咎人の系譜」
照りつける日差しに、男は額の汗を拭う。耕太の振り下ろす鍬の音が、規則的に響いた。
「おじさーん、耕太ー。お昼の支度が出来たよー」
隣家の娘であるなつが、小さな体に合わない大声で呼びかけてくる。男は「おう」と手をあげ、耕太に声をかけた。
なつと耕太が並んで歩く後ろを、男はのんびりついていく。すっかり背が伸びて男らしくなった息子と、小柄だが気だてのいい娘。妻同士はすっかり二人を結びつける了見らしい。もっとも、男のほうも反対する理由はなかった。
幼い頃から気心の知れた同士、夫婦になってくれれば、こんなに安心することもない。結局、妻に子が出来ることはなかったが、耕太がいれば十分だった。孫の顔は、耕太となつが見せてくれるだろう。
男は日焼けした顔をほころばせて、若い二人の後ろ姿を見つめた。
派手な音ともに、水の入ったバケツがひっくり返る。床を拭いていたルイは、頭から汚水を被ってしまった。
「ちょっと! 靴が汚れたじゃない!!」
罵声とともに蹴り倒され、ルイは仰向けに倒れ込む。痛みに顔をしかめながら、それでも起き上がって床に手をついた。
「も、申し訳ございません、お嬢様・・・・・・」
「全く役立たずなんだから! もー、ママー、こいつ首にしてよー」
頭上で交わされる会話は、聞き慣れたもの。ルイは、溢れそうになる涙をこらえながら、床掃除に戻った。
ルイは書斎の窓を閉めにいき、誰もいないのを確かめてから、うずくまって歯を食いしばる。
憎い。憎い憎い憎い。
自分を売った親が。自分とともに生まれた片割れが。
不吉だから売られた。忌み子として嫌われ、虐げられ、声を上げることも許されない。
どうして双子として生まれたのか。自分一人だったら、売られることもなかったのに。
片割れが女だったら、自分は親元で暮らせたのに。
今も家族と暮らしているであろう片割れが、殺したいほど憎い。
叫びたい気持ちを押し殺し、ルイはのろのろと立ち上がった。窓に近づくと、机に見慣れない書物が置かれている。机のものに手を触れてはいけないときつく言い渡されているが、ルイは何故かその書物に惹かれ、躊躇いがちに手を伸ばした。
かろうじて文字だと判別できる線と、複雑な文様を組み合わせた円陣が書かれている。ルイは訳も分からず円陣に触れ、指先で文様をなぞった。
突然、円陣から光が溢れ出し、ルイは驚いて本を投げ捨てる。部屋の隅で怯えて縮こまるその背中に、そっと手が置かれた。
「こんばんは、お嬢さん。悪魔を呼び出すのは初めてかな?」
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ