【創作】「咎人の系譜」
「ほら、耕太(こうた)が笑ったよ。あんたのこと分かるんだね」
腕の中で機嫌良く笑う赤子と、つられるように笑顔を見せる妻。男は相づちを打ちながら、久しぶりの平穏を感じていた。
知り合いから、親を亡くした赤子を引き取らないかと持ちかけられた時は、正直迷った。だが、子が出来ないことを苦にしていた妻から涙ながらに懇願されては、突き放すことも出来ない。
「あんたがいいんだって。抱っこしてあげな」
「お? お、おお」
あーうーと声を上げながら腕を伸ばす赤子を渡され、おっかなびっくり腕に抱いた。ずしりとした重み、甘い匂い。柔らかな手が頬に触れる。きゃっきゃとはしゃぐ子に、男は自然と笑みを浮かべた。
「そうかそうか、俺がいいのか。男は男同士だな、耕太」
押し込みに入られ、唯一生き残った子だという。きっと、神様がこの子を守ってくださったのだろう。男は無骨な手で赤子を持ち上げる。
「そーら、おっとうだぞ、耕太ー」
「ちょっと、落とすんじゃないよ?」
「なーに、かえって頑丈になるさ」
男の笑い声に、赤子のはしゃぐ声が重なった。
「ルイ! 暖炉が汚れてるわよ! とっとと拭きなさい!!」
罵声を浴びせられ、ルイと呼ばれた少女は身を縮める。煌びやかなドレスを身にまとった中年女性は、ふんと鼻を鳴らして、ルイに背を向けた。
「申し訳ございません、奥様」
ルイの謝罪を無視し、奥方は二階へ声をかける。
「ほら、早くなさい! パーティーに遅れるわよ!」
「はーい、お母様」
きゃっきゃっとはしゃぎながら、三姉妹が階段を駆け下りてきた。ドレスの裾を翻し、ついでにルイを蹴飛ばしていく。
「きゃあっ!」
床に倒れたルイを、三人はケラケラ笑いながら見下ろした。
「あら、そんなとこにいないでよ。邪魔ね」
「やめなさい、ドレスが汚れたらどうするの」
「きったない! 臭いが移っても知らないから!」
甲高い笑い声をあげながら、三人は玄関へと駆け出す。ルイは唇を引き結んで、雑巾を取りにいった。
「男女の双子は不吉だから」
そんな理由で、ルイは赤子の時に売られた。売られた先でまた売られ、ついには異国の地に流れ着く。
使用人としてこき使われ、いじめ抜かれても、帰るあてのないルイは耐えるしかなかった。
作品名:【創作】「咎人の系譜」 作家名:シャオ