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Scramble Egg 1

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母さんが用意しておいてくれた夕食のカレーを食べ、風呂に入り、歯を磨いて部屋に戻る。
その時だった。
パキッ!
「?」
パリパリ・・・
「???」
パカッ!ゴトン!
「!?」
急いで部屋に入り音の根源を探る。その正体はすぐに分かった。というより、確認する前からなんとなく予測していたことなのだが・・・。
棚から落ちて床に転がっているからの上半分。所々にかけらが落ちている。そして、視線を徐々に上げていくと・・・。
卵の下半分と卵の中にいたものが姿を見せていた。
「卵が、孵った?」
誰が見てもその通りなのだが、そう言わずにはいられなかった。それほどの驚きがあったのだ。そして、その生き物?があまりにも奇妙だった。
「なんだ・・・こいつ?」
何の生き物に例えればいいのか・・・、とりあえず色は卵と同じ水色。卵の中にいるのでまだよくわからないがおそらく二足歩行。長く後ろに垂れ下がった耳(っぽいもの)。あと長くて上に反りあがったしっぽ。全体的に体毛は生えていないようだ。この感じは・・・。
「恐竜?じゃないか・・・」
でもパッと見そんな風に見えた。けどやっぱり違う。でも耳のようなものを除けば爬虫類っぽい感じだ。多分。
しげしげと観察していると、生き物が純一の姿を認めてこっち来てと言っているかのような仕草をする。
それにつられて手を差し出すと、その生き物はぴょこんと掌に飛び乗ってきた。因みに大きさは掌ちょい大サイズである。大きい目に口、爪は三本で長い。正体はわからないが、その見た目は・・・
「かわいいな・・・。」
思わず眺めていた。その時だった。
「おなかすいた。」
「!!!?? 喋った!!?」
思わず投げ出すところをすんでのところで抑える。
「おなかすいた。」
相手は構わずそう言い続ける。
「あ?ああ、わかった。なんか持ってくるよ。ちょっと待ってて。」
そう言ってベッドの上に置き、純一は冷蔵庫の中を探る。
「やっぱ赤ん坊なんだからミルクがいい、のか?」
そう言いつつ牛乳を取る傍ら、自分が今の状況にかなり早い段階で順応してることに驚いた。いや、正直まだ驚いていて、何が何だかわからない部分は多々あるのだが、それでも今はあの生き物のために牛乳を注いでいる。
そのことに違和感というか、不思議な感覚になっている。
器に注いで生き物の前に差し出す。少し匂いを嗅いだ後、飲んでくれた。のだがすぐに飲むのをやめた。
「これ、おいしくないな。」
「へ?」
「なんか、他のものがいいよ。」
「ほかのって・・・ちょっと待っててくれ。」
そして再び冷蔵庫の前へ。
「他のって言われてもなあ・・・。ジュースとかはないし、コーヒーは絶対だめだろうし、かといってお茶もなあ・・・。」
さっきから純一は飲み物しか候補に挙げていない。それはもちろんあの生き物が生まれたばかりで、ものは食べられないだろうという推測もあったが、何より冷蔵庫の中には食べ物と呼べるものは何もないというのが一番の理由だった。
母親がパートを始めてから、基本的に冷蔵庫の中はその日の純一への料理が入っているだけになった。それはもう食べてしまったから、今はすっからかんである。
「あ〜、もうどうすりゃいいんだか。」
そしてふと視線を食卓に向けると、いりごまの袋が目に入った。
「これでいいか。」
悩むのをあきらめた純一は、いりごまを器に入れ持っていった。そして差し出してみると・・・。
「? なんだこれ?」
「ごまだよごま。とりあえず食べてみて。おいしくなかったらまた探してくるから。」
そう言いつつも、これで勘弁してくれという思いはしっかりと胸の中に漂っていた。
「うまい!うまいよこれ。」
「そうか、よかった。」
心の底からそう答える。
「これ、何ていう食べ物なんだ?」
「だからごまだって。」
自分から質問した割には返事を聞いていないようだ。その生き物は夢中でごまを食べ続けた。
「ありがと。うまかった。」
あどけない顔で見上げてくる。その様子を見ると、思わずかわいいと頭をなでそうになる。もちろん自制した。かろうじてだが。
「そうか、それはよかった。ええと。お前、名前は?」
「名前?オイラの?」
「そう。」
「分かんない。」
「え?」
「オイラ、自分の名前は知らないよ。」
そんな常識的なことを聞かないでよ。という雰囲気で返されても困る。
「知らないって、まあ確かに生まれたばかりだし。でも喋ってるのに自分の名前はわかんないのか。」
「ん。」
コクリと頷く。
「う〜ん、じゃあ名前を付けるか。」
そしていろいろ考えだした。チビ、ミニ、アオ、テール、アイ、アシ、ウデ・・・。頭を抱える。なんかもうただ体の部位をカタカナにしただけになってしまった。
まさか自分にこれほどネーミングセンスが無いとは。思いもよらなんだ。
ひとしきり考えた後、結論を出す。
「もういいや。ゴマで。ごま好きなんだし。」
「ん?」
「お前の名前はゴマに決定な。」
「え〜?オイラもっとかっこいい名前がいいな。」
「例えば?」
「ん〜と、アウスシュナイケルアトミシャニル・・・」
「長い。却下。」
「え〜?」
不満たらたらな様子だが、これ以上名前を考えるのも面倒だったので異論は黙殺した。
「名前は覚えやすい方がいいの。」
強引に名付け終えると、まだ不満そうな顔をしながらもゴマが純一の名前を尋ねてきた。
「じゃあ、お前の名前は?」
「俺?俺の名前は桐戸純一。」
「きりと?じゅにち?」
首をかしげながら微妙に間違っている名前を復唱する。その様子がおかしく、思わず吹き出しそうになるのをこらえながら訂正する。
「純一でいいよ。」
「じゅにち。」
「じゅんいち。」
「じゅにち。」
「じゅ・ん・い・ち。」
「じゅ・に・ち。」
最初の方は思わず笑ってしまったが、ここまで間違えられると困惑してしまう。
「なんで『ん』が抜けるんだ?」
「だって難しいんだもん。」
「・・・難しいか?分けて言ってみるぞ。じゅん。」
「じゅん。」
「いち。」
「いち。」
「よし。ちゃんと言えたな。じゃあ、つなげるぞ。純一。」
「じゅにち。」
がっくりと頭を下げる純一。
「もういいや、じゅんでいいよ。」
「じゅん。」
じゅんはきちんということができてほっとした。もしこれすら駄目だったらどうしようか本気で頭を抱えるところだ。
「そう。しかし、あんな長いカタカナが言えて何で純一が言えないのかね。」
「さあ、オイラ難しいことよくわからないもん。」
お互いの呼び方が決まったところで、とりあえず質問してみるだけしてみる。
「う〜〜ん、まあいいか。とりあえず、聞いても無駄かもしれないけど聞くよ。ゴマはどこから来たんだ?」
「知らない。」
「ゴマは、何て生き物なんだ?」
「知らない。」
「自分を生んでくれた親も知らないのか?」
「うん。知らない。」
「何か知っていることはないのか?」
「うん。なんも知らない。」
「何だそりゃ。」
思わず大の字に寝転がる。が、自分はベッドの端に座っていることを忘れていた。純一の体は大きくのけぞり、頭はそのまま床に激突した。目から軽く火花が散る。
「あい、たたたたった。」
「大丈夫かよ〜。」
作品名:Scramble Egg 1 作家名:平内 丈