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Scramble Egg 1

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ただ、このニュースの衝撃は結構大きかったらしく、この日を境に純一へのいじめは最初から無かったかのように無くなった。それだけなら何の問題もなかった。しかし、余波が生じてしまった。
純一が次の日登校すると、急に教室が静かになる。そしてまた何事もなかったかのように騒がしくなった。それはまるで、純一がこの教室にいないかのようなふるまいだった。
「まさと(純一の友達の名前)おはよう。」
「あ?うん。おはよう。」
そう言ったきり、顔をそむけてしまう。自分の周りに流れているこの空気はいったいなんだろう。純一には理解できなかった。
それからは、いじめもないが交流もない日々だった。どちらが苦だったかと聞かれても答えることは出来ないが、どちらも同じくらい苦だった。
そんな学校生活が一年ほど続き、純一は小学校を卒業した。特に思い出も涙も浮かばなかった。
中学に入っても特に生活は変わらなかった。変わったといえば寄ってくる奴が出てきたことくらい。それも、純一の小学校の話をどこからか聞きつけて生意気だと詰め寄ってくるガキ大将くらい。
そういう連中に対しても純一はすぐに手を上げず、必ず相手が攻撃をしてきたときだけ反撃した。部活には入らなかった。
いつしか純一は学校の番長のような扱いを受けていた。もちろん本人はそんなつもりは毛頭ないのだが、周りが勝手にそう奉っていったのである。そうした状況が災いを呼ぶことになる。
学校の窓が割られていたのである。中は特別荒らされていなかったから、おそらく面白半分に割られたのだという結論になる。そして、容疑者候補に真っ先に上がったのが純一だったのだ。
純一が、本人にそのつもりが全く無いとはいえ、事実上この学校の番長になっていることは先生も知っていた。だから純一、もしくはその子分(もちろんそんな奴いないが)の仕業だという見当がついたのである。
放課後、先生に呼び出され詰問される。純一は、初めこそ自分ではないと否定していた。心当たりもないと言った。だが、しつこく問いただされているうちに、どうでもよくなった。だから自分がやったということにした。
すぐに保護者召喚が為され、説教を受け続けた後、反省文を書かされることになった。
放課後、純一は一人教室に残り原稿用紙を前に座っていた。
自分はどうして強くなったのだろう。
それは強くなって父さんや母さん、そしていずれできるであろう守りたいものを守れるようになるため。
でも現状はどうだろう。
小学生の時は孤立した。今はこの学校の番長にされ、やってもいないことで反省文を書かされている。その元凶となったのは、自分が強くなったから。
じゃあ強くなったのはやはり間違いだったのか。
分からない。間違いじゃないと信じたいけど、そうだと言い切れるものが無い。もちろん両親のことは今でも守り続けたいと思っている。その思いは変わらない。でも・・・
そして純一は考えるのをやめた。何度考えても結局は堂々巡りで答えが出なかったからだ。きちんと反省文を書きあげ、帰宅する。その夜、両親と話をした。
「今日の先生の話。本当に純一がやったのか?」
「・・・・・・・」
「お願い。きちんと話して。」
両親に無用な心配はかけられない。
「いや、俺じゃない。誰がやったのかは知らない。」
「じゃあどうして自分がやったと言ったんだ?」
「わからないよ。気づいたらそう言ってた。でも後悔はしていない。きっとこれで良かったんだよ。本当に窓ガラスを割った奴が助かったんだから。」
「純一・・・」
「心配しないで、俺は大丈夫だから。」
そう言って部屋に入った。ベッドに体を投げ出す。
自分はこれからどうすればいいのだろう。強くなるのはいけないことなんだろうか。でも、強くなったおかげでいじめはなくなった。それは事実だ。でも、その代わりに色々なことが変わった。自分が分からなくなった。これから一体どうすればいいんだろう。
どうすれば・・・・
それからは、自主的に誰とも話さなくなった。自分が原因で周りに危害が及ぶのも嫌だったし、なにより、人と関わらなければ問題も起きない。だから、ずっと一人でいようと思った。一人で、構わないと思った。
純一は、学ランの第二ボタンをつけたまま卒業し、高校に入学した。
ここでの生活も変わらなかった。というより、誰ともかかわらない生活が続いたせいで、変えることができなかったというべきかも知れない。
そして、今日も一人で帰宅した。
「ただいま。」
その言葉に、返事は帰ってこない。当然といえば当然、両親は共働きからまだ帰ってきてはいないのだから。今夜も帰りは純一が眠ったあとだろう。
こんなのはいつものこと、一人は慣れている。そう心の中で呟きながらもその表情は浮かない。まるで自己破産して人生に疲れきったような顔をしている。
理想と現実の矛盾は、思ったよりも大きい。いっそのこと、自分がこの世界からいなくなったら、どこか別の世界へ飛んでいけたら。
そう考えて頭を振る。両親はどうなる。きっと心配して大騒ぎしてしまう。そんなことはさせたくない。やっぱり、今のままでもこの世界にいた方がいいと思う。
そこまで考えて純一は苦笑する。自分はいったい何を考えているんだ。こことは違う世界って、一体どこにあるんだよ。
冷蔵庫から牛乳を取り出し飲んだ後、自分の部屋に行く。宿題やってとっとと寝よう。
ドアを開ける。いつもと変わらない部屋。というわけでは無かった。
部屋の真ん中に、奇妙な物体が落ちていたのだ。上の方が少し尖った感じのボールのような形で、全体的につるんとしている。これは・・・
「卵?」
そう、見た目はどこからどう見ても卵だった。ただ。
「にしてはデカすぎないか?」
大きさはバスケットボールぐらいだろうか。どちらにせよ、普通の卵とするにはデカすぎる。
「これは、ダチョウの卵か?」
純一はそう考えた。生のダチョウの卵を見たことはないが、テレビかなんかで見たことがある。ダチョウの卵は、一般的な鶏の卵をきれいに大きくしたような感じなのだ。でも。
「こんな色じゃなかったよなあ・・・」
色は全体的に水色で、所々に模様がある。ダチョウの卵はこんな色じゃないし、模様もなかったはずだ。何よりも。
「なんでこんなものが俺の部屋にあるんだ?」
一番の疑問はそれだった。両親は純一が登校するより早く出勤する。帰りも純一より遅い。つまり、純一が家にいない間は、この家は留守のはずだ。
空き巣に入られたのか?そう思い、家のあちこちを調べたが、どこも荒らされていなかったし、何も盗まれていなかった。じゃあ両親が途中何かの理由で家に戻ってこれを俺の部屋に置いた。
何のために?というか、これは一体何なんだ?
最近自分の周りではわからないことばかりだな。そう思いながら、そのまま放っておくのは気が引けたから、棚の上に落ちないように置いた。あと、どう見ても卵にしか見えなかったのでタオルを何枚か持ち出し、それで卵を巻いた。
そして、宿題に取り掛かる。今日は数学の宿題が出ている。数学はそこそこ得意なので特に時間もかからず終わることができた。
これが苦手な英語だったらそうはいかなかっただろうが。
作品名:Scramble Egg 1 作家名:平内 丈