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優しい嘘~奪われた6月の花嫁~

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 しかし、奇蹟は起こった。その翌日にもコッコという人物からコメントが来ていた。大抵、返信時間は午前零時前後が多く、その時間帯に活動しているのは若い世代なのだろうかと考えたりもしてみる。

―昨日は仕事で疲れていたんですね。そんなところに、メールは迷惑じゃなかったですか? 私はこれからバイトに出かけます。夜はお客さんもあまりいなくて楽は楽なんだけど、眠いのがたまに傷かな。売り物のコーヒーとかを飲んで眠気覚ましにしてます。それでは、また。
  KOCCO

 紗理奈は読みながら眉を寄せた。
「女の子なのに、コンビニかスーパーで深夜バイト? 大変だわ。苦学生なのかしら」

―深夜に女の子がバイトするのは大変ですね。悪いお客さんに絡まれないように気を付けてね。                                 ラナン

 それ以降、二人のやりとりは続いた。同じ記事のコメント欄は二人のやりとりで埋め尽くされ、やがて、【KOCCO】からの提案でメールアドレスを交換し合い、メールのやりとりが始まった。
 コッコは普段使用しているメルアドではなく、予備の方で構わないとまで言ってくれた。どこの誰とも知らない人間に本当のアドレスを教えるのはいやだろうという配慮だった。しかし、紗理奈は普段のメルアドを送った。よくネットで知り合った相手が最初は良かったのに、突然人格が豹変したとか、物騒な話は耳にして知らないわけではない。
 だが、このコッコに限り、何故か紗理奈は信用しても良いという気がしていた。まったく根拠のない信頼であり、あまりにも不用心だと言われれば、そのとおりであったかもしれないが―。
 コッコの方は携帯電話らしくドコモのメルアドだ。こちらも、どうも普段使っているアドレスのように思われた。
 彼女からのメールは毎日、届く。紗理奈が返事をすれば、大抵、時間をおかずに返信が来た。
 ある日、こんなメールが来た。

―ところで、一度訊いてみたかったんだけど、ラナンさんのハンドルネームはどこから来たんですか? 由来は?
               KOCCO                     
―私の名前はラナンキュラスから来ています。コッコちゃんは知っていますか? 有名な花だから、知ってるよね。私、昔からあのお花が大好きなの。それで、ブログを始めたときに、ハンドルネームにしました。
                 ラナン
 
―なるほど、ラナンキュラスは私も好きな花です。きっと、あの華やかなお花みたいに綺麗な人なんでしょうね。ラナンさんはお幾つなんですか? きっと私よりは年上そう。
               KOCCO

―歳のことは訊かないで欲しいな―笑 でも、女同士だから良いよね。私は二十七、短大出て就職して、今じゃ、もうバリバリのお局よ。同期で入った子も半分は結婚退職したと思う。コッコちゃんはまだ若いでしょ、言葉遣いから、私より年下だって勝手に思って、ちゃん付けで呼んでますが、どうなんですか?
                ラナン 
               
―私は今年、二十歳になりました。バイトを掛け持ちしながら、専門学校に通っています。将来はトリマーになりたくて。
      KOCCO  
―やっぱり、まだ学生だったんだ。最初の方のコメントで、深夜バイトしてるって書いてたから、苦学生なのかなと思ってました。えらいね、一人で頑張ってるんですね。コッコちゃんなら、きっと優しくて犬や猫の気持ちがちゃんと判ってあげられるトリマーになれるよ。夢を持つのは凄いことだもの、頑張って。ところで、コッコちゃんの名前は、どこから来てるの?       ラナン

―私の名前は本名の香子(かおるこ)から来てます。少し変わってる名前でしょう。香子→こうこをローマ字にして崩してコッコ。
              KOCCO 

―ハンドルネームも本名も凄く素敵。香子なんて、女の子らしい、大和撫子っぽい名前じゃない?             ラナン

―ラナンさんにそう言って貰えて嬉しいです。私、ラナンさんより七つも年下で、まだ学生です。何かラナンさんは言葉遣いも大人の女って感じですが、私と話していて、つまらなくないですか?
KOCCO

―全然、そんなことないですよ。私は妹もいないから、コッコちゃんと話していると、妹ができたみたいで、愉しいし嬉しい。コッコちゃんは、こんなオバさんでつまらなくない?
                ラナン

―私も兄弟が一人もいなくて。ずっとお姉さん欲しいなと思ってたから。でも、できれば、ラナンさんにはお姉さんじゃなくて、友達になって欲しいんですが、どうですか?
              KOCCO 

―もちろん。年上風を吹かせたみたいで、ごめんね。これからも色んなことを話し合える友達でいましょう。
                 ラナン

―そういえば、ラナンで思い出したけど、私の母が昔、夢中になった映画に?ラ・マン?というのがありましたよ。 
KOCCO

―あ、それ、私も知ってる。フランス映画じゃなかったかしら。ラマンは愛人という意味なのね。十代のいとけない女の子が大人の男の愛人になるってう結構衝撃的な話で、ベッドシーンなんかも多くて色んな意味で話題になったとか。私、DVDを借りて見たことがあるの。                  ラナン

 紗理奈は相手が女の子だからと思って、さりげなく口にしたのだったけれど、コッコからの返信はいつになくこの場合に限り時間がかかった。何かまずいことを言ったのか、若い子は往々にして潔癖なものだ。いささかあけすけな内容であったかと反省していた時、メールが来た。

―ごめんなさい、私って、いつもこうなんです。つまらない話をいきなり持ちだしてしまって、相手が引いてしまうんですよね。ラナンさんもR18禁の映画なんていきなり話題に出して、私のこと軽蔑したりしたんじゃないですか?
             KOCCO

 どうやら取り越し苦労をしていたのは紗理奈だけではないらしい。紗理奈は微笑み、パソコンのキーボードを叩いた。

―私も年上なのに、不用意な失言でした。ごめんなさい、この話はもう止めましょう。でも、コッコちゃんのお母さまがお好きなその映画、確かに少し衝撃的ではあるけど、とても素敵な切なくて哀しいお話ですよ。心配しないでね。
                 ラナン

 それからおよそ約二時間もの間、紗理奈はコッコとメールで話を続けた。内容は幼い頃の他愛ない想い出とか、最近あった面白い話だとかだ。コッコと話していると、気の置けない友達と話しているようで、本当に愉しい。