慟哭の箱 9
(俺は結局、この子たちを追い詰めただけだった…)
そばにさえ、置いてやれなかった。悔しさと、言葉にできない虚しさ。そんなものが身体中を満たしていく。どうすればよかったのだろう。もう、すべてを失ってしまった。
「…?」
ぱらぱらとノートをめくっていた清瀬は、まだ埋められていない後半のページに筆跡を見た。慌てて戻って一枚ずつめくると、そこには。
「…一弥?」
頭の中が一瞬でクリアになり、清瀬はノートを持って部屋を飛び出す。寝る前に着替えていなかったのは幸いだったかもしれない。手帳も携帯も車のキーも、すべてジャケットに入っている。乱暴に車のアクセルを蹴っ飛ばしながら、携帯電話を取り出した。
「清瀬です。秋田さん、これから武長のところに向かいます。応援寄越してください」
『は?どうした、何があった』
「須賀旭が消えました。俺の失態です。武長のところに向かったんだと思います」
おそらくは、復讐に。
「俺は先にぶっ飛ばすから頼みます」
『わかった』
夜明けはまだ少し遠い街に、雨が降っている。清瀬は胸がつぶれそうな思いでハンドルを握りしめる。
まだ、まだ失ってなどいない。
今なら間に合う。そう言い聞かせながら車を走らせる。
助手席に置いたノートの、最後のページ。
そこに書かれた言葉は、傷ついた魂の叫びだった。一弥の。そして旭の心からの言葉だった。
この言葉を無下にしてはいけない。彼らを救える、最初で最後のチャンスなのだ。
絶対に叶える。助ける。たった一言、それでも清瀬を動かすには十分だった。
――清瀬さん
生きたい
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