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ゴキブリ勇者・カズキとマリ編

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「愛だの恋だの、こんなにバカバカしいことはないわ。
ものすごくどうでもいいことだと思わない?
人生なんて死ぬまで生きてるだけでしょ」

「でも……俺はマリが好きなんだ」

「私の母親もね、私のことが好きだって言ったわ。
超音波でお腹の中を見たとき私が可愛かったから産んだんだって。
私がいるから父親とも別れなかったって言った。
でも、それって裏を返せば私のせいで別れられなかったってことっしょ。
しかも、その大好きな娘に蹴られて死んだんだから、バカバカしい人生よね」


マリの心の闇はあまりに深すぎて、俺は酷く無力感を感じた。
マリは絶対に俺の前で泣くことはない。
俺じゃ、マリを救ってやることはできなかった。


「もう、自分の立場は分かった?
アンタはすごーく恵まれてんのよ。
さっさとお家に帰んな」


おっさんは俺を見送ってくれたが、マリは玄関の方にはこなかった。
俺は扉を閉めて、来たときと同じように少し立ち尽くした。


「マリ……」


なんて声をかけてあげたらよかったのか。
取り返しのつかない時間を埋めるように、俺はずっとグルグルと考えながら歩き出した。