雨の日は きみを想う
【海月、二匹】
濡れたシャツが貼りつく。僕はそこに立ち尽くす。
それに比べて水の中のきみは、何に囚われることもなく漂う。
否、囚われているのかもしれない。
僕たちを遮るのは、水面と言う名の境界。
その境界からきみは、決してこちらに来ようとはしない。
空を見上げた。
一面の鉛色。きみを呑み込んで広がる水と同じ色。
モノトーンの世界で、仰向けに浮かぶきみだけが白い。
「何もこんな日に泳がなくたって」
「水の中なら同じでしょ」
きみが手を差し伸べる。
「制服だよ」
「同じでしょ、もう」
きみの目が情欲に塗れたように見えるのは、この暗く歪んだ水のせい。
絶え間なく降り注ぐ雨のせい。
「おいで」
鉛色の水の中で、シャツがふわりと膨らんだ。
海月、二匹。
作品名:雨の日は きみを想う 作家名:なっつ