ゴキブリ勇者・魔王と手下編
それから何ヵ月たっても、何年たっても俺たちは変わらなかった。
色んなことがあって、俺たちはクラショーにも国にも精一杯立ち向かって、へとへとになっていた。
でも、城に帰れば三人でゲームをして、ずっとバカみたいに騒いでいた。
今日もこれから勇者様の結婚式なのに、三人で下らないことをやっていた。
「俺、当ったりー。ミカンの缶詰めご飯」
「お前なぁ、それはハズレだって何度言えば分かるんだよ」
「どこがハズレなのか俺には全然分からないな。こんなに美味しいのに」
「味覚がどうかしてるやつとやってもしょうがないってことだろ。
でも罰ゲームは実行してもらうからねぇ」
「言ってほしいことを言わせるんだっけ?
俺、なんでも言っちゃうよ~」
「私のことを好きだって言え」
俺はミカンをつまらせて、胸を叩いた。
ミカンって詰まるんだー、と現実逃避をした。
「早く言いな。なんでも言うんだろ?」
ふと気がつくと、あの人は真剣な顔をしていた。
魔王様は空を見上げている。
でも、俺はどこまでいっても適当な人間なので、二人の表情には気がつかないふりをした。
「さ、そろそろ結婚式に向かわないと。
まっちゃんもわさびご飯全部食べてね」
「食えるわけねーだろ。わさびの祟りかってぐらい、わさびまみれなんだからな」
「食べ物を粗末にするのはよくないぞー。
俺だってミカンご飯食べてんじゃん」
「アキラくんは好きで食べてんでしょ。一緒にすんじゃねーよ」
「まぁね、ヘタレなマサトちゃんには食べられないでしょうよ」
「なんだとコノヤロー!」
「全くいい加減にしな。さっさと向かわないと遅刻するよ」
「へいへい」
俺たちはバカみたいにかしこまった服を着て、オートバイに乗り込んだ。
あの人は控えめなドレスを着ていて、みとれるほどに綺麗だった。
「あーあ、しかしあの二人が結婚するとは。
なんだか不思議だな」
「そうね。まーいいんじゃない?
結構息があってたみたいだし」
「あの二人の子供なら、天真爛漫に育ちそうだしねぇ。
もっと賑やかになりそうだよ」
「そういえば俺洗濯機作ったんだけど、喜んでくれるかな?」
「洗濯機ってなにができんの?」
「服を洗うことが出来ます」
「なんかショボいね」
「うるせー。主婦のおばさま方には喜ばれること請け合いよ」
「そうかい?なら、いいんじゃないかねぇ」
「じゃあ、そろそろ出発するよ」
俺たちをのせて、バイクは華やかな商店街のそばを通る。
ここ数年の間に魔王様の面はいつの間にか外れていた。
だから、俺たちは三人で買い物に出掛けることもあった。
なんとなく幸せなのかもしれないと、ぼんやり思っていた。
「あれ?教会ってどこだっけ?」
「もうちょっと行ったら左だよ。間違えんなよ」
「へいへい」
俺は後ろにあの人を乗せて、町中を走った。
エンジンは軽やかな音をたてていた。
作品名:ゴキブリ勇者・魔王と手下編 作家名:オータ