ゴキブリ勇者・魔王と手下編
「おめでとーっす。お祝いに洗濯機作ってやったから、受けとれよ」
「はは、全く相変わらずだな。アンタらも、お変わりないようで」
「まぁね。私たちは変わる必要もないからねぇ」
「えー、俺たちも式あげようよ。ドライアイスでもくもくしてる中、ゴンドラに乗ってさ」
「それいつの時代の結婚式だよ。曲はてんとう虫のサンバか?」
魔王様のツッコミに俺は渋い顔をした。
そんな俺の隣で、あの人は暗い顔を一瞬だけ覗かせた。
俺は気がつかないふりをして、ワインに口をつけた。
「あー、月が綺麗だねぇ」
それから、二次会も終わり、俺たちは帰路についていた。
月が煌々と輝き、俺たちに柔らかい月光を浴びせていた。
「いやーホントにキレイ!
食べちゃいたいぐらいだね」
俺たちは酒に酔いながら、川原をフラフラと散歩していた。
なぜか魔王様まで酔って千鳥足になっている。
お前はまだ十代だろ!と言ってみたけど、酔いが覚めるわけではなかった。
「あーもう、私たちも結婚式あげたいねぇ。
モクモクでゴンドラのやつ。いいじゃないか」
「ホントに~?ホントなら俺引いちゃうな」
「お前が言い出したんだろー。いいからお前ら結婚しちゃえよ!」
「しちゃうか!そんで庭付きの白いお家に住んじゃうか!
大きな犬を飼うのが夢だったのよねー」
「乙女チックな夢だねぇ。まぁ、アキラがそうしたいなら、好きにしな」
「マジで?やったね」
俺たちは酔ったふりをしながら、川原を歩き続けた。
今日は空気が澄んでいて、星の瞬きが見える。
もし流れ星が通ったら、今の俺ならなにを願うだろう。
何十年もたった時の俺なら、なにを願うだろう。
「月が綺麗だな」
「そうだねー。月が綺麗だ」
もし何十年もたった時、俺がこの人といられたら、その時はお願いを叶えてください。
突然通った流れ星に、俺はそう願った。
「今なんか光ったぞ!流れ星じゃねぇの!?」
「多分ね。見れてラッキー」
「ラッキーじゃねぇし!願い事しとくんだった……」
「あら、魔王様はなにを願うおつもりで?」
「これからも三人で一緒にいたいってお願いしたかったんだよ」
「へぇ、それは素敵なことで」
俺は何十年後かのお願いに、魔王様も追加した。
闇の中にキラキラと光る星は、とても綺麗で、今の俺にはまだ眩しすぎた。
ー続く→
作品名:ゴキブリ勇者・魔王と手下編 作家名:オータ