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ゴキブリ勇者・魔王と手下編

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暗闇の中で誰かの声が聞こえる。
俺は誰の声か分かっているようで、なにも分かっていなかった。
この声の主と話したい。
そう思った瞬間、俺は目を覚ました。


「あれ……なんで泣いてんの?」


あの人が顔をビショビショに濡らしていたので、俺はその涙を指でぬぐった。
ぼんやりと辺りを見渡すと、魔王様は背を向けてなにかを作っていた。
俺はなにをしていたんだっけ?
しばらく思い出せなかった。


「アキラ……!」


心臓を掴まれたように、俺は呼吸が止まった。
あの人が、俺の名前を呼んでいた。


「アキラ……もう死ぬなんて言わないでくれよ……」


戸惑いながら、俺は恐ろしいことに気がついてしまった。
あの人の左腕が、ない。


「ちょっと……これどーしたのよ!?
なんでこんな……!」


そして、俺はようやく自分がなにをしていたのかを思い出した。
しかし、そんなことは左腕がない理由にはならなかった。


「なぁ、一体なにがあったんだ!
俺のせいなのか!?」


あの人は泣いているばかりで、なにも喋らない。
戸惑う俺に、魔王様が作業の手を止めて振り返った。


「ああ、お前のせいだよ。アキラくん」


魔王様まで俺の名を呼んでいる。
しかし、そんなことはどうでもいい。


「なにがあったのか教えてくれ。
頼むから」


魔王様は困った顔をしながら、俺に告げた。
左腕が無いのは魔法の代償だという。


「お前を助けるために、さっちゃんは難しい魔法を使ったんだ。
そうしたら……左腕は溶けちまった」

「そんな……なんでこんなバカなことしたんだ!」

「バカなことじゃない!私はお前に死んで欲しくないんだ!」


魔王様は困った顔のまま、手持ちぶさたに立っている。
あの人は俺を見てボロボロ泣いている。
俺は絶望感でいっぱいになった。


「なぁ、魔王様、なんとかできないのか!?
あ、プスタテクルコってあっただろ!
あれを俺に使わせてくれ」


魔王様は首を横にふった。
俺は魔王の胸ぐらを掴んだ。


「いいから使わせろ。一体どこに隠した?」


魔王は苦しそうに顔を歪めたが、場所は明かさなかった。


「お前がそう言い出すのは分かってたから……お前には絶対見つけられないところに隠した。
腕については、今俺が義手を作ってる」

「義手なんかいらない。今すぐあれを使わせろよ」

「さっちゃんがそれをのぞんでねぇから……俺には出来ねぇ……!」


俺は魔王を床に投げ捨て、家捜しを始めた。
片っ端からガラクタの山をひっくり返し、開発室をめちゃくちゃに散らかしていった。


「やめろ、私はそんなことは望んでないんだよ」


あの人に止められても俺は手を止めなかった。


「私はね、アキラに私を恨んで欲しかった。
だってお前は自分を責めてばかりだから……本当はお前は何一つ悪くないのに、私が全部悪いのに」

「君はなにも悪くない!君を半殺しにしたのは俺だ。
君を研究所に閉じ込めたのは俺の両親だ!
なのに、君を恨むわけないだろ!」

「でも、アンタの両親を殺したのは私じゃないか!
アキラを苦しめたのは私だ!ちゃんと分かってるから、もうやめてくれ……!」

「いや、無理だ。もう、君は自分の人生を歩いて良いんだよ。
俺に苦しめられることないじゃないか」

「私はアキラが好きなんだ!」


体が動かなくなる。
俺はこの言葉を望んでいたはずなのに、どうしてこんなに胸が締め付けられるのだろう。
俺は動けないまま固まっていた。


「私は三人で一緒にいたいんだよ。
どうしようもない魔王様とカマくさいアンタと一緒にいたいんだ」


それは数日前に聞いた勇者様の言葉と重なった。
全く感化されちゃって。
俺は笑ったつもりだったのに、こぼれ落ちたのは涙だった。


「もう勘弁してちょーだいよ……。
俺は、君が苦しむところなんてもう見たくないんだ。
君を重荷だなんて思いたくないんだよ……」


すっと魔王様が部屋の奥へと消えてった。
ガキのクセにませた対応しちゃってさ。
俺は笑ったはずなのに、やはり涙は止まらなかった。


「私が悪かったよ……だから死なないでくれ。
私のこと重荷だと思っていいから、それでも死なないでくれ。
身勝手なのは分かってる。でも一緒にいたいんだよ」


あの人は青い顔をしたまま泣いていた。
相当無理をして俺を助けたのだろう。
俺はもう一度、指で涙をぬぐった。


「……君にこんなこと言わせちゃうなんて、俺ってサイテーだね。
どう償えばいいか分からないな」

「私たちと一緒にいてくれるだけでいい。
それ以上はなにも望まないから」

「そう……じゃあそうしよっかな。俺なんかでよければだけど」

「お前で十分だよ……ありがとう」


俺は泣きながらあの人を抱き締めた。
あの人も俺の背中に右腕を回した。

この人のためになるなら、俺はこの苦しみを抱えて生きていこう。
俺はもう一度覚悟を決めた。

窓から差し込む弱々しい光は、空が白んできたことを告げていた。