ゴキブリ勇者・魔王と手下編
私は窓から月を眺めていた。
魔王もあの男も、今はこの城にはいない。
後を追いかけるべきかどうか、本当はずっと悩んでいた。
しかし、私にはその権利さえないのだとも思った。
だから、私は自分の部屋で月なんか見上げていた。
「なぁ!アイツが出ていっちまったんだよ!だから……」
駆け込んできた魔王は私の顔をみて固まった。
どうしてだか、自分でもすぐに分かった。
私は泣いていたのだ。
「……泣くぐらいなら、アイツを追っかけろよ。さっちゃんならヨユーで見つけられんだろ」
そうできればどんなにいいか。
しかし、私の足はすくんでしまって、言うことを聞かない。
これ以上、アイツの人生の重荷になるわけにはいかなかった。
「私は……アイツがしたいようにさせてやることしかできないよ。
止める権利なんて私にはないんだから。
魔王様も知ってるだろう?私はアイツの両親を殺したんだ」
「知ってるよ。でも、だからってアイツを死なせていい理由にはならないだろ」
私だって死んでほしいわけじゃない。
けれど、どうすることもできないのだ。
「きっと……私が死ぬなって言えば、アイツは死なないんだろうねぇ。
アイツは優しいやつだから。
優しすぎて、今もバカなことをしようとしてるしね」
「分かってんなら早く追いかけようぜ。行くぞ、さっちゃん」
「いや……でもそれはきっと、アイツのためにはならないよ」
アイツが見限った世界に、アイツを縛り付ける訳にはいかない。
アイツは今までだって、私という枷をつけて生きてきたのだ。
私といるのはアイツにとっても辛いことだろう。
無理強いなんか出来るわけーー。
「なにを綺麗事言ってんだよ、大馬鹿野郎」
私は初めて魔王の怒った顔を見た。
その目は強く真っ直ぐで、私は視線を合わせることが出来なかった。
作品名:ゴキブリ勇者・魔王と手下編 作家名:オータ