すれ違い電話
七 前へ
天気のよい秋のフィールド。今年も最終節は西央と東鳳の一騎打ちとなった。雌雄を決める全勝対決。勝った方が優勝、スタジアムにはその瞬間を見んと万単位の人間が訪れた。
玲士の母校もここ数年続いた低迷期を不屈の闘志で復活を遂げ、常勝とは言わずとも毎年優勝戦線に名を連ねるレベルまで来た。それは観客の数に比例し、大学の名誉と威信をかけた戦いは秋の涼しさとは裏腹に、暑ささえも覚えた。
玲士はいつしか一人で観戦することを好むようになっていた。観客席で知り合いを見かけることも多くあるが、玲士の発するオーラがそれ以上の接触を拒む。
観戦する位置はいつも決めている。フィールドに向かって左40ヤードラインのところだ。現役時代に40番の背番号を付けていたというのはただのゲン担ぎで、本当の理由は50ヤードのフィールドゴールを蹴る場合、エンドゾーンの10ヤードが含まれるのでこの位置からボールが蹴られる。かつて玲士はフィールド上のこの位置でスナップされたボールをセットし、蹴られたボールが弧を描いてポールの間を突き抜けるのを見ていた。当時はこれより遠い位置からフィールドゴールを選択そして成功する者がいなかったので、それだけ達成感があったものだ。
当時は研究のため、そして今は当時の自分をダブらせて見ている。いつになってもあの時に置き忘れてきた自分を忘れないため、そしてあの時の自分に未練があった。自分のミスでチームを導き損ねたことは今でも拭い切れずにいた。
* * *
今年もあの時と同じで、キッキングチームの調子がいい。攻めあぐねたらパントで陣地を奥まで押し込み、そこで抑え込んだところからフィールドゴールでじわじわと点数を重ねる。そんな試合運びでお互いタッチダウンはないが終始僅差のリードを保ち、ゲームは第4クォーターを迎えた。
ゲームは2点のリード。敵陣20ヤード付近に入ったところの第3ダウンで痛恨のサックを受けて、クォーターバックもろとも陣地は大きく後方に下がりスタンドのテンションが下がっていた。
第4ダウンロング、敵陣34ヤード
玲士はフィールドを見つめながら祈った。この流れを戻すにはフィールドゴールだ。これを決めれば点差以上のプレッシャーを与えられるに違いない。もし自分があそこに立っていたならそれを志願したはずだ。
「頼む、蹴ってくれ」
スタンドからの祈りはフィールドに届いたのか、満場の拍手の中キッキングチームがフィールドに向けて走り出し、スクリメージの7ヤード後方、敵陣41ヤードのところでホルダーが膝をついた――。
「決めろ!決めてくれ!」
玲士は腹の底からフィールドに向けて叫んだ。あれから破られていないフィールドゴールの最長記録。塗り替えられることで自分も新しくなれる、そう願ってスクリメージを見て右手を真っ直ぐに出す後輩にありったけの声をぶつけた。