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すれ違い電話

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三 すれちがい電話



 卒業から3年の歳月が流れた。色とりどりの尾翼が空を往来する国際空港、玲士は大きな荷物を地面に降ろし日本に帰ってきた。

 玲士は卒業後すぐに就職せずに自分の道を探しつつ、家業の手伝いをしていたが姉や友人たちの進めでワーキングホリデーの制度を利用してオーストラリアに渡ることにした。
 アメリカンフットボールをしていただけにいつかはアメリカに行って試合を見てみたいという願望があって、海外で活動するということには興味があった。そして玲士が決めた行き先はオーストラリア。地球で言えばアメリカの反対側にある国であるが、ワーキングホリデー制度のある複数の国の中、玲士は迷わずそこに決めた。

 自分の中では一地方大会の一ゲームの一プレーのことを強く考えてないようにしていたのであるが、あの時の悪夢の瞬間を知る者は多く、地方を離れても同じで、椎橋と言えば「最後のあのプレー」といって冗談交じりに揶揄されることはある。 
 受け入れることを拒否するつもりもなければ現実は現実で受け入れる以外に方法はないので、そのことにいちいち目くじらを立てるようなことはしなかったが、やっぱり玲士は忘れたかった。そしてその場から遠く、それも自分が考えられるいちばん遠くまで離れたかった。そこで選んだのがオーストラリアへの就職だった。

 帰国直後は実家で居候させてもらっていたが、都合よく今すぐに始められる仕事はない。やがて地元で定職に就かずにいることに気を使い実家を出ることにしたが、世の中そう甘くないもので町に出ても就職先はなかなか見つからない。
 それでも玲士は不定期のアルバイトをしながら貯金を切り崩しつつその日暮らしを続けている。仕事を求めて町を点々としたが、結局人を頼り大学周辺の町に戻ってくることになった。住まいは大学近くの6畳ひと間の文化住宅、その生活は学生の頃を大きくかわらないくらいのものだった。

   * * *

 玲士はアルバイトを終えて帰宅したのは深夜も過ぎた時間帯。真っ暗な家に灯りを点し床に転がった。  
 そんな中、持っているだけであまり使うことのない携帯電話が鳴った。聞き慣れない着信音。そういやアドレスにある者からのメールは個別に設定していることを忘れていた。それくらい知った者からの連絡もなかったが、玲士はそう気にしてもいない。
「おお、久し振りじゃんか……」玲士は旧友の知らせにニヤニヤしながら携帯を開けた。

   「ゼロさん元気か?」

 メールの主はかつての相棒であるキッカー、丸山理志だった。送り主と件名を確認したのち玲士はそのメールを開けた。

   「いきなりの近況報告なんだけど今度結婚するんだ」

お相手は大学のころから付き合っていたゼミ友の響子であると聞き、玲士は目を細めた。互いを良く知るカップルのゴールインに自分も気分が軽くなるのを感じる。

   「近々、会わないか?トビーにも連絡してるんだ」

キッキングチームの縦ライン、スナッパーの宗輔は現在も実業団リーグでセンター(オフェンスライン)の選手として活躍している。リーグが忙しいこの時期に宗輔と会えるのも嬉しい。

   「楽しみです。是非会いたいです」

 あの時から止まっていた時間、玲士は自らの指でそれを進めんと送信のボタンを押した。

作品名:すれ違い電話 作家名:八馬八朔