短編集 1
雨
「どうだね雨はやみそうかい?」
ばーちゃんの声に仕方なく閉ざされている雨戸を少し開ける。
「西の空に青空が見えてくる頃だろう」
一応その方角を見てみる。
「もうすぐじゃよ、もうすぐ」
そう言ったばーちゃんは、そのあとまた静かな寝息を立て始めた。
「やれやれ、やっぱりボケちゃったみたいだ」
僕はそう呟いて三重になっている雨戸を締め直した。
玄関がガチャガチャと音を立てた。
とーちゃんたちが作業から帰ってきたみたいだった。
玄関のハッチの横の洗浄機が音を立て始めた。
防御作業着の毒物を洗浄しているのだろう。
降り続ける厄災の雨を室内に持ち込むことは厄介なことだからだ。
一日の始まりから終わりまでずっと降り続く厄災。
とーちゃんたちも空と云うものを生まれてから一度も見たことがないと言っていた。
ばーちゃんは、ばーちゃんがまだ僕くらいの頃までそれはあったと時々つぶやく。
世界には空がありそれは青く、雲も白いものだったと云う。
雨もきれいな水で時には直に濡れたりしたともゆう。
ばーちゃんは夢でも見たのだろう、雨などに濡れたりしたらあっとゆう間に具合が悪くなり隣のおじさんみたいに死んでしまうから。
そうだ、外はあぶない世界だ。
人が住めない世界だ。
とーちゃんにはやっぱり黙っていたほうが良さそうだ、時々ばーちゃんに頼まれて雨戸をあけ外の暗い世界を眺めていることなんて。