短編集 1
ビル
窓の外は壁が立ちふさがっていた。
暗く澱んだ部屋に、風を日を入れようと曇りガラスを開けて見たのだが。
確か通りから見る限りでは何もなかったはず。
この古ぼけた雑居ビルの三階を借り、引越しを始めたところなのだが。
ごちゃごちゃと入りくんでるせいだろうか?通りに面していると勘違いしたせいだろうか?他に窓は見当たらない。
狭い階段を上り幾つかのドアを過ぎ借りたはずの部屋に入り、締め切った窓からは、昼の喧騒が確かに聞こえていたはずなのに、壁…。
仕方なくまた窓を占める。
気になって仕方ない。
部屋から出て念の為に鍵をかけ、またもと来た廊下を戻り階段を下る。
建物の外に向かえば、やはり日中のけたたましい騒音がみ満ち溢れている。
通りをわたりビルを眺める。
一階から最上階まで、窓が三列ずつ並んでいるようだ。
向かって右手にある階段から一番離れた左の端が借りた部屋だ。
三階の左端。
同じような窓がちゃんとある。
何か変だ。
ビルのとなりはやはり同じような高さで建物がぴたりと並んでる。
入口もなにも見当たらないのは、横か裏にでもあるのだろう。
もう一度部屋に戻ることにした。
狭い階段を上る。
一階から二階。二階から三階に。
ドアが立ち並ぶ狭い廊下を歩き、一番端のドアへ。
ん?一番端。
恐る恐る開けてみると、さきほどと変わりないやけに薄暗い部屋。
正面には曇りガラスの窓。
ドアを閉め、立ち並ぶドアの数を数えてみた。
階段までの間に、目の前のドアを除いて三つ。
慌てて廊下を階段を走る。
車の往来も構わず通りの向こうへ。
窓の数はさっきと同じ。
今度はゆっくりと通りをわたり、隣へと。
狭い隙間をぬぐい裏側に。
となりは雑居ビル。ぴたりと並んだ建物には、やはり裏手にも入口も何もない。
表の通りに戻り、元の雑居ビルの階段に向かう。
一階から一歩一歩二階へと。二階からゆっくりと三階へ。
狭い廊下を確かめて一つ目のドアを過ぎ、二つ目のドアを過ぎ、三つ目を過ぎ、最後のドアへ。
鍵を開け、元の部屋の中に。
よく見れば勘違いだった。
窓の外に壁などあるはずもなく、表の通りから見たとおりそこには窓もなく、
そして入ってきたはずのドアさえも消えていた。