ゴキブリ勇者・結婚編
一度は先生に頼んだくせに立ち聞きをしていた俺は、待合室の床に座り込んだ。
また、後先考えずに行動してしまった。
その思いだけが、頭を支配していた。
「先生……アイツ死んじまったらどうしたらいいですか……。
俺が先に死んだ方がいいですか……」
自分が死にたいだなんて話を誰かにしたことはほとんどなかった。
でも、もう駄目だ。
俺は先生にすがり付いた。
「もう、俺生きていたくありません……もう駄目だ……アイツを余計に傷つけた……」
「そんなことないよ。君は君のできる精一杯をやったと思うよ」
「でも……もう駄目だ……!アイツ死んじまう……!」
「まだ諦めちゃ駄目だよ。きっともっとちゃんと話せるから。
自分を責めてもしょうがないよ」
「でも……だって……!」
その時、扉が静かに開いた。アイツが俺を呼んでいるらしい。
俺はしばらく立ちすくんで、でも向かった。
先生もついてきてくれた。
「……入るぞ」
それはちょっと前と同じ光景で、アイツは一言も喋らなかった。
けれど、看護師が言った。
「アナタと話したいって言ってるから……。でも、ケンカしちゃ駄目よ」
それだけ言って、看護師は出ていった。
すると、アイツは一言だけ喋った。
「先生も席を外してください……」
先生は困った顔をしながら、俺に目配せをして、いなくなった。
部屋には俺たち二人だけが取り残された。
長い時間が始まった。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ