ゴキブリ勇者・結婚編
延々と沈黙が流れる。
俺は喋れなかった。アイツも喋らなかった。
あまりに病室が静かすぎて、外の音がよく聞こえた。
辺りには遠くから甲高い子供の声だけが響いていた。
「……俺もな、話せなかったことがあるんだ」
俺は意を決して、ずっと抱えてきた思いを少しずつ吐き出した。
「俺はまともな体じゃないだろ。
成長するスピードだって、普通より速い。
だから……思ったんだ。俺、お前より先に死んじまうかもしれないって」
アイツはなにも言わない。
俺はなんとか勇気を奮い立たせて、話続けた。
「それに、俺みたいな子供が産まれてきたらどうしよう。
変な力が遺伝したらどうしよう。
すごく悩んだ。お前に話して、別れるべきじゃないかって」
俺は窓の外を見た。今日も雨は降り続き、空は灰色だった。
幸せなんて、この空の中には見つからないかもしれない。
「でも、それでも俺はお前のことが好きだ。
だから、別れるなんてやっぱり無理だ。
俺と一緒にいてくれ。頼むから」
気がつくと、俺はまた泣いていた。
涙が膝に落ちて、小さなシミを作る。
それを何度も繰り返していると、アイツがぽそりとなにかを言った。
「なんだ?」
とてもか細くて、聞き取るのに必死にならなくちゃいけないような声だった。
そうでなくても、俺は必死だった。
「私のこと……愛してるのか?」
やっと聞き取れた言葉に、俺は力強く頷いた。
「ああ、俺はお前を愛してる。お前と結婚したい」
アイツは表情を歪ませて、むせび泣いた。
俺も似たようなもんだ。
二人でずっと一緒に泣いた。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ