ゴキブリ勇者・結婚編
「なぁ、あんまり無理しちゃ」
話しかけたが、俺の声は彼には届いていないようだ。
とても怖い顔をして、病室にズカズカと入ってきた。
彼女も少しだけ動揺したようだった。
そして、彼はそのままキスをした。
「……な!やめろ!なにするんだ!」
突き飛ばされて、彼は後ろに転がった。
俺はすかさず駆け寄った。
「突然なにしてるんだ。こんなこと……」
しかし、やはり彼は彼女だけを見つめていた。
「……気持ち悪かったかよ」
「は?」
「俺とのキス、気持ち悪かったか?トラウマになりそうか!?」
彼女は戸惑っていたが、怒りながら反論した。
「気持ち悪いとかじゃないだろ!突然なんなんだ!
意味が少しも分からないぞ!」
「意味が少しも分からなかったのは俺の方だ!」
彼の頬を涙が流れる。ずっと怖い顔をしながら、彼は彼女の肩を掴んだ。
「ずっとお前のことばっかり考えてたのに、少しも分からなかった!
でも分かりたかったんだよ!
どうして話してくれなかったんだ!」
彼は泣いている。ずっと泣いていた。
「俺はお前のことは気持ち悪いとは思わねぇ!
お前の子供のことだって、絶対に気持ち悪いとは思わねぇ!
お前のことが大好きなんだ!」
「なら、もし頭がおかしい子供が産まれたらどうする!
私の母はどうかしてたんだぞ!
私もきっとどうかしてるんだ!何世代にも渡って頭のおかしい系図ができあがってしまうんだぞ!
その責任をとれるってのか!」
「お前はおかしくねぇよ!」
気がつくと彼女も泣いていた。俺はただ見ていることしか出来なかった。
「お前の子供だって、大丈夫だ!
もしどうかしてたとしても、愛せる自信がある!」
「なにを根拠に言ってんだ!ふざけるな!」
「お前のことを愛してるからだよ!」
悲痛な叫び声が一通り響いて、病室に病院のスタッフ達が入り込んだ。
俺は間に入ってなんとか待ってもらうように言ったが、効果はなく、二人は引き離されてしまった。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ