ゴキブリ勇者・結婚編
「入るよ」
彼から許可をもらって、俺は彼女と話すことになった。
部屋は都合よく個室で、彼女はポツンと一人で横になっていた。
「今、彼がどんな状態か話しに来た。
答えなくていいから、ちゃんと聞いてね」
やはり返事はない。俺は構わず話続けた。
「彼ね、全身に湿布を貼ってるんだよ。しかも痛み止めと胃薬を大量に飲んでる。
止めても聞かないんだ」
彼女に反応はなく、寝ているのかもとさえ思った。
しかし、寝ているときよりもさらに、体の動きが少なかった。
「前に俺のせいで、俺たちが死んだことがあるよね。
その時のショックを彼はまだ忘れてないんだ。
俺が偉そうに言えた義理じゃないけど、でも見ててかわいそすぎるよ」
相変わらず動きは少ないままだ。
「君もちょっと酷すぎるんじゃない?
なんの説明もなく、こんなことするなんて。
君も彼も痛々しすぎて見てられないよ。
なんでもいいから話してくれないかな」
突然、彼女がそっぽを向いたまま起き上がった。
「じゃあ、先生は私の話を受け止めきれますか。
安っぽい慰めで終わるんじゃなくて、本当に心の底の方で聞いてくれますか」
「ああ……聞くよ」
はっきり言ってさほど覚悟はできていない。
でも、聞かなければ彼女は死んでしまうだろう。
俺は中途半端な気持ちのままうなずいた。
「私の父の話をしましょう。これは誰にも話したことはありません」
温度の無い声で、彼女は淡々と話始めた。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ