ゴキブリ勇者・結婚編
「ずっと前から思っていたんだ。私たちは別れた方がいいって」
なんでそんな平気な顔して、そんなことを言えるのか分からない。
俺は怒るべきかどうかさえ分からなかった。
「理由は……?俺のことが嫌いになったのか?」
「いや、君のことは好きだよ。でも、好きなだけだ」
それのなにが悪いのだろう。
アイツはちゃんと答えも解説した。
「私は君を愛してるのか分からないんだ」
ヤローの表情は少しも変わらない。
なにを考えているのか分からなくて、怖かった。
「そんなの……これから分かっていけばいいだろ。
なにも別れることねーじゃん」
「じゃあ、聞くが私たちはカップルのようなことが出来たか?」
「えっ?」
「デートはしたよな、何回も。
でも、キスとかそっちのことは、私が嫌がって一切出来ないだろう。
これでも本当に恋人か?」
「待てよ。別にそんなことどうでもいいじゃないか。
お前が嫌なら俺は」
「どうでもよくはないな。こんなのは間違ってる。
そもそも告白したこと自体間違いだったんだ」
俺はやっと頭にきて、アイツに怒鳴った。
「ふざけんなよ!俺の気持ちは考えないのか?
俺はお前が好きだから、一緒にいたいんだよ!」
しかし、ヤローの表情は固かった。
「きっと、私は一生誰の子供も産めないぞ。
それどころか、キスすら無理かもしれない。
君もそれじゃあ辛いだろ」
「どうだっていいって言っただろ。お前といれるだけで幸せだよ」
「あのな……じゃあ、本音で話すよ。
君といると私が辛くて仕方ないんだ」
「なんだと?」
「君と私の年の差、考えたことあるか?
私はもうすぐ三十で、君はまだ十代なんだぞ。
よくよく考えれば、無理な約束だったってことは分かるだろ」
「そんなことなんで気にすんだよ!俺はちっともそんな」
「だから嫌なんだ。君はなにも考えてない顔をするからこそ嫌なんだ。
君とはもう一緒にいたくない」
少しも意味が分からなかった。
俺はコイツが好きで、コイツも俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?
どうしたらいいのか、さっぱり分からなかった。
「じゃあ、私はウチに帰るよ。もう顔は見せない。じゃあな」
アイツは早足で玄関に直行した。
まるで俺から逃げるように。
俺は必死でアイツの腕を掴んだ。
「待てよ!こんなのおかしいだろ!」
しかし、手は振り払われた。
「なにもおかしくなんかない。最初から失敗だったんだ。
じゃあな」
扉を開けて、本当にアイツは出ていってしまった。
俺はしばらくその場から動けなくて、いろんな事が頭をぐるぐると回っていた。
アイツが傘も持たずにいなくなったことに気がついたのは、何十分もたってからだった。
すぐに探しに行ったが、もうアイツの姿は見つからなかった。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ