ゴキブリ勇者・結婚編
「入るよ……」
勇者に呼ばれて、俺は病室の中に入った。
二人とも疲れきった顔をして、目が腫れていた。
だけど、さっきよりも落ち着いているようだ。
「先生に聞きたいことがあるんです」
彼は真剣な目をしていた。俺は、精一杯その目に答えることにした。
「俺たちが結婚するって言ったら、どう思いますか」
きっと俺が生きてきた中で、一番重い問いだった。
俺は、丁寧に答えた。
「君たちが結婚することは、問題ないと思う。
君たちは気が合うわけだし。遠慮なくお互いに言いたいことを言えるし。
俺は心から祝福するよ。
……だけどね」
二人とも真剣な顔で聞いている。
この思いに答えなければならない。
「君のことは心配だよ。
魔法が使えたり、成長するスピードが速かったり、イレギュラーなことばかりだ。
君たちの子供が産まれたとして、遺伝しないとも限らないからね」
彼はそっと目を伏せる。
こんなこと、出来るなら俺も言いたくはなかった。
けれど、それ以上に俺は二人を信じていた。
「だけど、俺は君たちなら乗り越えられると思うよ。
今までも、君たちは支えあってきたじゃない。
なにかあったら俺も協力するし、俺は君たちを信じてる」
彼女が弱々しい声で言った。
「もし……私が子供を虐待したら、どうしたらいいですか」
俺は首を横にふった。
「それについては心配してないよ。
君は虐待なんてしないだろうしね。
それにもしそうなったとして、彼がいるじゃない。
彼が止めてくれるよ」
二人はうつむいたまま、なにも言わなかった。
俺は二人を残して病室を出ることにした。
「じゃあ、俺は外で待ってるから。
二人でよく話しなよ」
扉をゆっくり閉めて、俺はふっとため息をついた。
こんなに緊張したのは久しぶりだ。
二人のことは気になるが、一旦コーヒーでも飲むことにした。
今は甘いコーヒーが飲みたかった。
作品名:ゴキブリ勇者・結婚編 作家名:オータ