はじまりの旅
クグレックは多少引きつつもニタの話に相槌を打つ。いつもと違うニタの様子にクグレックは戸惑いを覚える。いつも陽気だが、今は輪をかけて陽気だ。しかも、ニタは中身のない話をするばかりで肝心の外れの岬に関する情報を一向に話そうとしない。しびれを切らしたハッシュがニタの頭をむんずと掴み、怒気を孕んだ低い声で
「いい加減に本題に入れ。」と脅しをかけた。
ニタは「うええ」と変な声を上げて文句を垂れるが、やがてはずれの岬に関する情報を話し始めた。
「はずれの岬には紅い髪をした魔女が住んでいるんだって。でも、その魔女が超ヤバい奴で、近くを通る人を捕まえて監禁しては、自らが作った薬の投薬実験を行うんだって。何人もの人が実験の犠牲になって廃人状態、精神崩壊状態で戻って来るらしい。だから、今は現地の人は近付かないようにしてるし関わらないようにしている。しかも、その魔女は、若くて見目麗しい男が大好きで、拉致するのはイケメンが多いんだって。いやぁほんとに異常性癖をもってるよね。気持ち悪い。」
「で、その魔女はディレィッシュを助けられるのか?」
お喋りが達者すぎるニタに、ハッシュはニタの頭を掴む力をより強くさせる。
「うん。うん。やばい魔女なんだけど、治癒薬作りの天才らしいのは間違いない。アリスは、――あ、アリスってあの女の人ね、あの魔女は白魔女なんじゃないかって言ってる。」
「白魔女…!」
かつてニタとクグレックが訪れたポルカという村では白魔女は村民から讃えられ、そして白魔女からの恩恵を受けていた。その時に貰った白魔女の薬でハッシュの腹の銃創も治してくれた。ニタの話からすると、ポルカの白魔女とは全く別人のように感じられるが、一体どういうことなのだろうか。だが、考えてみれば御山の麓の集落で出会ったティアは白魔女の知り合いで、白魔女のことはあまり良い印象を持っていないようだった。
「だから、外れの岬にある紅い髪の女のところに行けば薬がもらえるんじゃないかな、とニタは思うわけ。はい、そう言うわけだから、手、離して。」
と、ニタに言われたハッシュは素直にニタの頭から手を離した。ニタは不機嫌そうに掴まれた部分を手で払って、ディレィッシュのために用意されていた水をぐびぐび飲んだ。
「白魔女だとすると、それなりに礼節を尽くして向かった方がよさそうですね。」
ムーが言った。ムーはティアの友達であるため、彼も白魔女に会ったことがあるようだ。
ハッシュは「あぁ」と頷き「土産も買った方が良いかもしれないな。」と返事をした。
「じゃぁ、今日は休んだ方が良いですね。一応部屋の余裕はあるそうなのでハッシュさんと僕、ククとニタの部屋を準備してもらいましょうか。」
「…いや、俺はここで良い。」
「そうですか。じゃぁ、僕もここで大丈夫です。僕はどこでも眠れますから。とりあえずククとニタの部屋だけ準備してもらいますよ。」
「あぁ、ありがとう。そうしてやってくれ。」