はじまりの旅
クグレックは首を横に振った。
「私じゃない。ディッシュがやったの。ボウガンで。」
と、クグレックが言うと、ディレィッシュは小さなボウガンを揚々と掲げた。
「ニタ、落ちた矢は回収してくるとありがたい。」
「分かった。」
ニタはボウガンの矢を拾い、ディレィッシュの元へ運んだ。
「格好良い武器だね。」
「ニタの鉄拳に比べれば、おもちゃみたいなもんさ。」
そう言って、ディレィッシュは小型ボウガンを解体する。
「あれ、もうしまっちゃうの?」
「あぁ、山登りに持ち歩くのは邪魔だからな。」
「そう。」
そして、再び一行は岩場を進み続ける。確かに不安定な足場では、小型とはいえボウガンを持って歩くのはバランスもとりづらく大変であった。
その後もたびたび魔物は出現したが、なんとか追い払うことは出来た。が、先程の猿の様な魔物のように素早かったり、特殊な攻撃を行ってくる魔物が多かった。強い魔物というわけでもないが、足場が足場なだけに戦い辛く、前衛隊の体力は順調に削られていった。
が、瘴気が一層濃くなって、魔物も一度に4,5体ほど現れるので前衛隊の骨を折った。
「ティア、魔物が、どんどん増えてるけど、魔物スポットはどこにあるの?」
「この近くにあると思ったんだけど…。うーん。」
ティアは一旦立ち止り、腕を組んで、目を閉じた。眉間に皺を寄せ、うーんと唸りながら考え込む。そして、開眼した。
「大変。魔物スポットは頂上にあるわ!」
とティアは声を上げた。
「なんでわかるんだ?」
ディレィッシュが尋ねた。
「えっと、ほら、悪魔祓いの師匠のせいで、魔に関して敏感になっちゃったから、魔物スポットも感覚でどこにあるかわかっちゃうのよ。」
「へぇ。」
と頷くディレィッシュは何かを含みを持っているようだった。
「まぁ、そんなことはどうだっていいの。狂暴なドラゴンと一緒に魔物スポットがあるなんて、厄介すぎるわ。ドラゴンだけでなく魔物も一緒に相手にしないといけないなんて。」
「ふむ、それは厄介だな。」
「でも、行くしかないんでしょ。」
ニタが問うと、ティアはこくりと頷いた。
「えぇ。魔物も思っていたよりも強いわけではないし、ニタもハッシュも強いわ。隠し玉のクグレックもいるから、勝算はある。ディレィッシュ、アンタは身を挺してククを守るのよ、頑張って!」
「ほう、ククを守るナイトということか。」
一行は気合を入れ直し、頂上へ向かう。頂上へ向かうにつれ、次第に見かけなくなっていた植物たちがちらほら姿を現したかと思うと、樹林帯が広がるようになった。そろそろこの標高では植物も育たなくなる高さだが、草花樹木共々立派に育っている。さらに、どこからか聞こえる動物たちの声。これまで岩や砂利といった殺風景だった景色が、急に生気を持ち始めた。
「山頂はもうちょっとよ…。」
ティアは周りの景色を見て、そう言った。
御山が霊峰たる所以はここにある。
山頂周辺の神性だ。
通常の標高では、御山の山頂は森林限界に当たり、樹木が育たない。だが、不思議なことに山頂付近に限り、御山では樹木が低地と同じように育っているのだ。
これが御山の神性であり、霊峰と呼ばれる所以の1つである。