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はじまりの旅

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「この扉を壊せばいいんじゃないの?」
 ニタがすっと立ち上がり、扉に向かって強烈な一撃をお見舞いする。
 ドン!という大きな打撃音がしたが、扉はびくともしなかった。何か特別な素材で作られているのだろうか。と、ニタは首を傾げる。
 ニタの生態実験の際に、ニタの発揮できる最大の力をデータとして取っていたので、ニタの力では開けないように、扉が耐久度を上げていた。いつの間にか頑丈な扉に交換されていたようだ。
「あ、そうだ。ディレィッシュのプライベートラボに行く道はどう?」
「機能するかな?私達はディレィッシュに監禁されているんだよ。」
「やってみなきゃわからないよ。」
 ニタは4D2コムを持って、バスルームへ向かう。
 エネルギー研究所で実験が行われるようになってから、ディレィッシュのプライベートラボに訪れることはなくなったので、久しぶりのエスカレベーターの扉を起動する。
 ピロリーンという音と共にバスルームのバスタブがなくなり、代わりにエスカレベーターの扉が出現した。
 扉に4D2コムをかざすと、扉は自動的に開いた。エスカレベーターの内部は薄暗く、このままでは動かない。ニタは再び4D2コムを弄ると、エスカレベーター内の灯りが点灯し、ブゥンと低い起動音がした。そして、独特の浮遊感を持って動き始めた。
「…反応するとは思わなかった…。」
 ニタは4D2コムに視線を落としながら呟いた。
「え?」
「だって、ディレィッシュはニタ達のこと、外に出したくないはずでしょ。ましてや、ディレィッシュの研究データが残るプライベートラボに無断で入らせたくないと思うし…。なんか嫌な予感。」
「ディレィッシュの手の上で踊らされているんだね。」
「いつからなのかは分からないけど。」
 ニタとクグレックは胸の内に言いようもない不安を抱えながらもエスカレベータ―の到着を待った。
 ガタンと音を立ててエスカレベーターの動きが止まった。
 自動で開いた扉の先には誰もいない。いつもであれば、笑顔のディレィッシュが迎えに出てくれていた。そのせいか分からないがいつもの廊下の青い灯りが無機質で冷たいものに感じられた。
 二人は緊張した面持ちでラボへ続く廊下を歩き、行き止まりに到達した。
 ここは一件行き止まりに見えるが、パスさえクリアすれば目の前の壁が開いてラボに通じるようになっている。傍にある小さな箱の中に暗証番号を入力する装置がついているのだが、ニタはそこではたと動きを止めた。
 このラボへの暗証番号はいつも出迎えてくれていたディレィッシュが入力してくれていたのだ。ニタ達に分かるはずがない。しかも、指紋認証によって暗証番号入力が起動されるため、二人が小さな箱の中の機械をどう弄ろうとも何の反応もなかった。
「万事休すだね…。」
「ここまで来たのに…。」
 がくりと肩をおとして項垂れる二人。と、その時、ニタが持っていた4D2コムがけたたましい音を発した。

「う、うえ、何?」
 ニタは慌てて4D2コムを確認した。さらさらと表面を撫でると、4D2コムから声が聞こえて来た。
『ごきげんよう、ペポの戦士ニタと黒き魔女クグレック。』
 ディレィッシュの声だ。
『我がプライベートラボにようこそ。どうしても私に会いたかったのだね。来ると思っていたよ。だが生憎私は爆発事件の対応とそれに対するランダムサンプリへの報復準備で大変忙しい。』
「報復準備って…」
『なお、これは事前に録音しておいたものだ。万一二人が私に会いたくて、プライベートラボまで来た時のために、吹き込み準備しておいた。』
「やっぱり、ニタ達がここに来ることはお見通しだったわけか。」
『エネルギー研究所は吹き飛んでしまったが、同時に進めていたエネルギー高炉の運用は上手く行っている。ここには対ランダムサンプリ用の報復装置が存在するのだが、最後の締めに二人の力を借りたいのだ。3日後、クライドが二人のことを迎えに来る。部屋に戻って、身支度をしてくれ。二人へのメッセージは以上だ。会うのを楽しみにしているぞ。』
 ぷつっという切断音がすると、それ以降ディレィッシュの声が聞こえることはなかった。
「報復装置ねぇ…。クク、どうする?ディレィッシュに会いに行く?クライドが来るから、逃げられないような気がするけど。」
「うん。力を貸すつもりはないけど、ディレィッシュに会うことが出来れば、話が出来るよ。」
「ニタは罠の様な気がするんだけどな。嫌な予感しかしない。」
「それでも、行かなきゃ。」
「分かったよ。…ねえ、クク、部屋に戻ったらやってみたいことがあるんだけど、それだけ協力してくれない?」
「え、いいけど、何をやるの?」
「部屋に戻ったら教えるよ!」
 二人は元来た道を戻り、再びエスカレベーターに乗って、部屋へと戻った。
 そして、ニタはクグレックに“やってみたいこと”を筆談で伝え始めた。言葉にして話してしまうと、どこかで王が聞いているかもしれない。現に扉越しにマシアスと交わした会話は筒抜けであったし、ニタがやってみたいことがばれてしまうと、本当にどうすることも出来なくなる。
 3日間の猶予があったので、二人は静かに、そして気付かれないように入念に策を練り、準備を行った。
 それから約束の3日後になると、朝早くからクライドの来訪があり、二人は10日ぶりに部屋の外へ出ることが出来た。
「いやぁ、やっぱシャバの空気は違いますなぁ。」
 クライドに連れられて城内を歩く二人。クライドは相変わらず無表情で寡黙である。常に右手が帯刀している剣の柄に触れているのは、クグレックとニタが万一逃げようとした際に太刀打ちするための準備だった。彼の剣捌きは音速の様に早く正確である。
 と、その時ニタは手に持っていた4D2コムを誤って落としてしまった。
 カンカンカンと大理石の廊下に大きな音を立てて転がる4D2コム。慌ててそれを追うニタにクライドは猛禽類の様な鋭い視線を向けたが、4D2コムを拾い大人しくニタが戻って来る様子を見ると、再び歩き始めた。
 これがニタの“やってみたいこと”だった。
 そのままクライドは城の駐車場へ向かい、二人をデンキジドウシャに乗せ、自らの運転でデンキジドウシャを走らせた。向かう先はおそらくエネルギー高炉だ。


作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴