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はじまりの旅

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 そして、宴も終わり、二人は宛がわれた部屋で一息ついていた。
 侍女から部屋の使い方の説明を受け、ニタは好奇心にかまけて部屋の内部を色々と弄り始めていた。
 この部屋は入り口にあるスイッチや、ベッド横にあるスイッチ一つで灯りをつけることが出来る。部屋の気温もリモコン1つで調節することが出来る。また、部屋の隅にあるニタ一人が入れそうな大きさの銀色の箱はレイゾウコというもので、飲み物や食べ物を冷たく補完することが出来る。冷たい飲み物がすぐに飲める便利な箱だ。また、冷やすだけでなく凍らせる機能もついている。
 部屋の中央にあるローテーブルの上にはポットが置いてあった。これは火を使わずとも瞬時にお湯を沸かし、保温することが出来る機械だ。ティーカップと茶葉は準備されているので、すぐに紅茶を飲むことが出来る。隣の部屋には風呂も備え付けられており、こちらもボタン一つ押せば泡風呂が出て来る仕様だ。
 とにかく便利な機械が揃っているこの部屋で、好奇心旺盛なニタは色んなものを弄り尽した。
 クグレックもニタ程でもないにせよ、気になる物には一通り手を触れて使い方を確認している。
「ニタ、寝る前にこのボタンを押すと、リラックスして眠れる音楽が流れたり、いい匂いがしたりするんだって。なんだか至れり尽くせりだね。」
「本当に!レイゾウコのなかも凄いよ!アイスが入ってるし、色んなジュースも入ってる。お酒も入ってるけど、ククはまだ未成年だから飲んじゃダメだよ。」
 おそらく未成年であろうニタも興奮気味で言う。ニタの口元は茶色く汚れていた。どうやら、レイゾウコの中にはチョコレートも入っていたらしい。祝宴であんなに食べたのに、まだ食べるニタにクグレックは呆れかけた。
 と、その時。部屋の中央にある手のひらサイズの手鏡のような機械から音楽が流れて来た。
「に、ニタ、これはどう使えばいいんだっけ?」
 ニタは目を輝かせて音楽が鳴る機械を掴みとった。使い方は侍女から説明されている。
 表面をさらさらと撫でると、手鏡の様な機械から光が放たれた。ニタはそれを床に置くと、光の中から国王ディレィッシュの姿が現れた。しかし、このディレィッシュは透き通っていて、向こうの壁が見えている。
『やぁやぁお二人とも。どうやらトリコ王国謹製機械を使いこなしているようだね。繋がって何よりだよ。』
 透き通ったディレィッシュはニコニコしながら言った。
 一方で、ニタとクグレックは目を丸くして驚いていた。こんな小さな鏡からディレィッシュが出て来たのだ。体は透き通っているが。
『そうか、初めて立体ホログラム映像を見たから驚いているんだな。二人とも、これはただの映像なんだ。私は別の場所にいるんだが、この機械を使えば、離れたところでもこうやって話をすることが出来る。無論私の部屋からもこの機械を通して、二人の声や姿が見えているよ。』
「機械って、魔法みたい!何が起こるか分からない!」
 興奮した様子でニタが言った。
『ははは。確かに初めて見ると、魔法のように思えるかもしれないな。でも、これはタダの機械さ。機械は魔法のように自由には出来ない。』
 それでも、クグレックは姿を映したりするような魔法はまだ知らない。魔法なんかよりも機械の方が凄いのではないか。
『さてさて、二人にはお願いがあってね。今後のトリコ王国の発展のためにも、ぜひぜひ協力してほしいんだ。直接会って話がしたいんだ。この4D2コムを手に取って欲しい。私が見えていると、取りづらいだろうから、いったん私は消えて声だけになろう。』
 そういうとディレィッシュの姿は瞬時にして消えた。ニタとクグレックはきょろきょろと辺りを見回すが、ディレィッシュの姿はどこにもない。
『4D2コムを手に取ってくれ!』
 手鏡からディレィッシュの声だけが聞こえる。ニタはそれをひろい上げて不思議そうに眺める。
「…4D2〈フォーディーツー〉コム?これのこと?」
『そうだ。その液晶を触ってみてくれ。』
 ニタは4D2コムの表面に触れた。すると、1から9までの数字が表示された。
『指で3、1、1、2と触ってみてくれ。』
 ディレィッシュに促されるまま、ニタは表示された数字を触る。
 すると、バスルームの方から、ピロリーンと間の抜けた音が聞こえた。
『ロック解除成功だ!バスルームの方へ行ってみてくれ。』
 ニタとクグレックはおそるおそるバスルームの方へ向かう。クグレックは何となく胸騒ぎがして、樫の木の杖を手に取った。
 バスルームに行くと、そこにあったはずのバスタブがなくなっていた。その代わりに今までなかったはずの扉が出現していた。
『そこの扉に4D2コムをかざせばドアは開く。そしたら中に入って、またパスワードを入力してくれ。番号は5622だ。』
 ニタが4D2コムを扉にかざすと、ドアは勝手に開いた。二人はびっくりしつつも恐る恐る扉の中へ入る。暗くて狭い部屋だった。ニタとクグレックだけで窮屈な部屋なのだ。バスルームよりも狭い。
 ニタはディレィッシュの指示通り再び4D2コムの液晶を触り、数字を順番通りに押していく。
 すると、ぶううんという低い音とともに部屋の照明が自動的につき、扉が閉まる。低い起動音と共に二人は浮遊感を感じるが、床に足はしっかりついている。
 ガタンと音がすると同時に部屋がガクンと揺れた。また浮遊感を感じた。
『これはエスカレベーターと言ってな、私のプライベートラボまで連れて行ってくれるんだ。』
 4D2コムから聞こえる誇らしげなディレィッシュの声。
 流石のニタもとめどなく溢れるトリコテクノロジーに疲労感を見せつつある。
「もうなにがなんだか…。」
「カガクの力って魔法よりもすごいと思う…。」
 再びエスカレベーターがガクンと揺れる。それと同時に低い起動音も止み、エスカレベーターは静寂に包まれた。ぷしゅーと音を立てて、エスカレベーターの扉が開くと、そこは客室のバスルームではなかった。白いナイトガウンに身を包んだトリコ王ディレィッシュの姿がそこにあった。
「ようこそ。私のプライベートラボへ。さぁ、こちらへ。」
 ディレィッシュは嬉しそうに二人を部屋の奥へと招く。
 ニタとクグレックは恐る恐るエスカレベーターを出て、きょろきょろあたりを見回しながらディレィッシュの後を着いて行った。
 青い灯りの廊下を少し進むと、行き止まりに辿り着いた。しかし、ディレィッシュが傍にある小さな箱型の機械に弄パスワードを入力すると、行き止まりだと思われていた壁が瞬時に開いた。奥の方は真っ暗だったが、ディレィッシュが入室すると、自動的に青い灯りがついた。
 そこはドーム型の円形の部屋だった。大きさは二人に宛がわれている客室と同じくらいの広さだ。
だが、そこかしこに大なり小なりの機械のようなものが設置されているので、人が歩ける面積は限られていた。
「ここは、私以外の者は立ち入ることがない、特別な部屋なんだ。弟たちにもここに立ち入ることは許していない。」
 ディレィッシュの表情に僅かばかりか暗い影が差した。が、すぐに微笑みが浮かぶ。
「イスカリオッシュはダメなのにニタ達は良いんだ。それで大丈夫なの?」
作品名:はじまりの旅 作家名:藍澤 昴