はじまりの旅
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祝宴は大広間にて開催された。
上座のメインテーブルに案内された二人は、席について大人しくしていたが、しばらくしてから砂漠の衣装に身を包んだイスカリオッシュがやって来た。イスカリオッシュはクグレックの隣に座った。クライドは王と一緒にやって来るらしい。
席は中心の席とニタの隣が開いていた。
そして、さらにしばらくしてから、20代くらいの青年が姿を現した。
「やぁ、諸君お集まりのようだね。」
白いいターバンをヴェールのようにして金色の装飾でとめ、金色のマントを羽織った人物がやって来た。その後ろをクライド達数名がついて来る。
青年はクグレック達をみるとふわりと優しく微笑んだ。空の様な水色の瞳が優しくクグレックたちを見つめる。ターバンの下から覗くサラサラな金色のおかっぱの髪を見て、ニタとクグレックは、はっと息を呑んだ。
この男はリタルダンドの首都で出会った男、ディレィッシュだ。
「ももももしかして、ディ、ディレィッシュ?」
ニタが動揺を隠せない様子でどもる。
「敬称をつけろ、ニタ。」
ディレィッシュの後ろにつくクライドが不機嫌そうに低い声で言った。だが、ディレィッシュは微笑みを称えながらそれを制して
「ふふふ。いいんだ、クライド。二人は私の客人であり友人なのだ。それに、ちょっとサプライズをしたかったので、ニタとクグレックが驚くのも仕方がないことなのさ。」
と言って嗜めた。
「では、改めて紹介しよう。私はトリコ王国国王ディレィッシュだ。再び二人に会えて嬉しいよ。」
ニタとクグレックはびっくりして何も言えなかった。あのリタルダンド共和国で出会った青年が一国の主だったとは。その若さと気さくさから、全く推測することが出来なかった。
ディレィッシュは満足した様子で、ニタとクグレックの間の席に座った。その背後にクライドがぴったりとくっつく。
「そうだ、その様子だとクライドもイスカリオッシュも正体を明かしていないだろうから、私から紹介させて頂こう。まず、イスカリオッシュは私の弟だ。トリコ王国第2皇子だ。そして、後ろのクライドだが、私の親衛隊隊長だ。」
「ところで王、第1皇子はどうしたんですか?」
イスカリオッシュが尋ねると、ディレィッシュは途端に表情を暗くした。
「…ハーミッシュは、体調不良だ。部屋で休養を取らせている。」
「彼は少し休んだ方がいいはずですからね…。ただ、席が空いてしまいますね。」
そう言ってイスカリオッシュはニタの隣の空いた席を見た。
「やむをえん。無理をして余計悪くさせてもマズイ。彼の仕事はいまだ忙しい。」
「そうですね。」
「まぁ、気を取り直して、宴を始めよう。」
そうして、宴は始まった。
王が乾杯の音頭を取ると、それからは音楽や豪華絢爛な踊りが目の前で繰り広げられ、大いに皆を楽しませた。食事も次から次と出て来る。クグレックは緊張しっぱなしであったが、ニタは大いに満足し、次第に緊張もなくなって行った。
宴の最中、ニタは王に気になっていたことを尋ねた。
「マシアスはどうしてるの?」
「ん、マシアス?」
王は首を傾げる。
「マシアスだよ。ディレィッシュの弟。」
「はて、私にはハーミッシュとイスカリオッシュの二人の弟しかいないんだが…。」
「え、どういうこと?あの時、マシアスのことを弟って言ったじゃないか。」
「うん?いつの時のことだ?…お、ニタ、凄いぞ、火を使いながら踊るみたいだぞ!」
目の前で繰り広げられる余興に、国王は大いに釘付けだった。マシアスに関する話は、これ以上話しても無駄なようだとニタは一旦諦めて、目の前の宴を楽しむことに集中した。ごはんもおいしいので、今はこの楽しさを享受しよう、と決めた。