はじまりの旅
「私達は私達の旅を続けよう。時期が来ればまたクライドにも会えるはずだ。」
ハッシュは仕方なしに「あぁ」と応じるが、完全に納得しているようではなかった。
「ねぇねぇ、トリコ王国の追手って何?」
ニタが尋ねた。
「あぁ、トリコ王国を勝手に抜け出した者は死罪なんだ。意図がないにせよ情報を持ち出すことは重罪だからな。」
ハッシュが当たり前だと言わんばかりに答えた。
「おっかない国!」
ニタは竦み上がった。
「それにしてもみんな。」
ディレィッシュが横たわったまま声をかけた。
「みんなには心配をかけてしまったな。おかげさまで熱も下がって体はだいぶ楽になった。今日は皆ゆっくり休んでくれ。」
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それから3日後、熱によって消耗されたディレィッシュの体力も半分ほど回復し、一行は港へと向かった。ディレィッシュは本調子ではないが、療養するならばハワイ島の方が良いとムーが判断したためだ。当人であるディレィッシュもそれに同調した。
宿屋を出る際は、アニーが大泣きして大変だった。が、宿屋の主人がアニーに一喝したことで、アニーの癇癪は収まり、ニタはなんとかアニーから離れることが出来た。親はしっかりと子供をしつけなければいけない。
港には小型の木製の船が就航していた。
桟橋から歩み板を渡って船に乗り込み甲板に出ると優しい海風が5人の頬を撫でた。
目の前には水平線がくっきりと見え、ゆるくカーブを描いている。この世界は平面であると思い込んでしまいがちだが、実は球体なのだ。
この海の向こうに『滅亡と再生の大陸』が存在し、アルトフールも存在する。
まだまだ先に見える旅の終着地はゆっくりと近づいて来ている。それはとてもゆっくりと近づいて来ているのだが、一行が歩みを止めない限りは近付き続ける。