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ゴキブリ勇者・ピエロ編

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客は立ち入れない事務所のパイプ椅子に、私は粗雑に腰かけた。
普段ピエロの衣装をしまっているロッカーも、男の後ろに見える。

私がヤケクソである以外、ここはなにも変わらず、歪んだ日常が私を取り巻いていた。
その中でももっとも歪んだ男が私に声をかける。


「コーヒーでもお持ちしましょうか」


私は睨み付けるようにしながら言った。


「いりません。
それより話を聞かせてください。
そのためについてきたのですから」


事務所は妙な明るさで輝き、私は少しめまいを覚えていた。


「そうですか。
なら、お話ししましょう。
アナタはトウガサキ村のことは知っていますね?」

「ええ。確か魔物に襲われた村のことですね」


魔物が村を壊滅させ、生き残ったものはいないという。
そう、今の子供たちの教科書にさえのっているはずだった。


「あの村は、私たちが襲ったのですよ。私たちが壊滅させました」

「……なんですって?」

「私たちとトウガサキは、宿怨のある関係でした。私たちの出身も、本当はトウガサキなのですよ」

「まさか……」

「私たちはあの地獄から逃げ出してきたのです。トウガサキという牢屋から」


男は顔色一つ変えることなく、足を組み換えた。
それは余裕を漂わせた動きで、頭を酷く悩ませている私とは対照的だった。


「地獄とは、どういうことですか」

「あの村はなにもないところです。
この科学の時代に、狩りをしなければ生きていけない。
外に出ていくことさえ制限されていて、私たちはとてもそんな毎日に耐えられなかった」


話を聞きながら、私はある違和感を覚えた。
この話をしている男は、恐らく私よりも若い。
とても、自分の体験を話しているようには思えない。
きっと、組織を代表しているからこの話し方なのだろう。
酷く嫌悪感を覚えた。


「では、アナタ方はトウガサキから逃げ出してきたのですね。
なら、なぜ救世主まがいの行動を続けるのですか」

「まがいではなく、救世主なのです。この世界は汚い。
私たちが導かなければいけないのですよ」


この綺麗事も飽き飽きだ。
なにか核心にせまるたびに、クラショーの人間は綺麗事で覆い隠す。
実際、私もこれまではそうしてきた。

しかし、限界だった。


「いい加減にして頂けませんか。
アナタ方は一体なにをしようとしているんです?
これだけは答えて下さい」

「それをお話しすると、アナタを始末しなければいけなくなる。
よろしいのですか?」

「ええ、覚悟の上です。もう、なにも知らないのはまっぴらだ」


突然、能面が崩れて男の顔に笑みが浮かんだ。
笑っているのだと、私は思った。
しかし、なにを考えているのかさっぱり分からない。


「私たちはこの国を支配しようと思うんですよ。今の国王はアホでね。
私たちを操っている気になっていて、自分が操られていることに気がついていない」


男はクッと笑い、楽しそうにした。
だが、目は少しも笑っていない。
こんなに冷や汗がとまらないのは、生まれて初めてだ、と私は思った。
その思いに集中して、男の顔は見ないようにした。


「トウガサキのやつらは、とても悔しがるでしょうね。
救世主の称号も、王位も私たちに奪われてしまっては、浮かばれないでしょう。
しかも、勇者まで私たちの手中に収まっているのだから」

「勇者というのは、何年も前に話題になったあの勇者ですか」

「ええ、そうですよ。彼をさらったのはトウガサキの連中だったのです。
それを私たちが奪い返して、ある施設に閉じ込めていたのですがね。
つい先日逃げ出してしまったのですが、まぁまた戻ってくるでしょう。
彼自身の意思でね」

「なにをするつもりですか」

「仲間を失わせようと思います。
一人は記憶を失っていますが、記憶が戻れば彼は爆弾になります。
きっと、勇者はこちらに戻ってくるはずですよ」

「やっぱりアンタ達はろくでもないな」


背後から突然声がする。
はっと振り返ると、そこにはお面と角をつけたロングコートの子供が立っていた
作品名:ゴキブリ勇者・ピエロ編 作家名:オータ