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ゴキブリ勇者・ピエロ編

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私はコートのポケットにあった名刺を、街灯の下でそっと読んだ。
魔王と書かれた紙はいかにも子供だましで、バカバカしいことこの上ない。
しかし、魔王の噂というのも、私の耳に届いていた。

いつも手作りの角とお面と黒いコートを身につけて、万引きや壁へ落書きを続ける魔王。
だが、城下町なんてものまであるらしい。
この魔王になにが出来るのかは全く分からないが、最後の頼みの綱として考えておくことにした。

月の光はいつの間にか霞み、ぼんやりと光の輪が月を囲っている。
夜霧がうっすらと広がって行く中、私は遊園地へと歩を進めた。

移動遊園地の合鍵を、私は特別に持っていたのだ。

妻からの連絡はまだクラショーには届いていないだろう。
私は門をゆっくり開けた。

見た目に反して、門は軽い素材で出来ており、私の覚悟とは裏腹にあっさりと開いてしまった。
中に入ってしまえば、後戻りは出来ない。


「母さん、私のしていることは間違っているのかな」


問いは闇に消え、答えはどこからも返ってこない。
そう思っていた。


「アナタは間違っています。
こんな時間になにをするつもりですか?」


アトラクションの影や、門の周りから人がわらわらと集まってくる。
クラウン商会に所属してると、これはわりと見慣れた光景だ。
なのに、私は寒気が収まらなかった。


「アナタはなにがしたいのですか?
せっかく子供にも恵まれて、不自由などなにもないはずです。
今までも、これからも」


確かにその通りなのだ。
私は今の生活を拒めるほどの幸せが見つけられることは、きっとない。

だが、確かめなければならなかった。


「アナタ方がここにいるのは、私の妻が連絡をいれたからですか」

「ええ、そうです」


どうやって、などと手段は問題ではない。
妻は完全に私を見限ったのだろう。
夫婦であるのに、その絆よりクラショーの方が重かったのだ。

分かっていたはずなのに、私は無力感に襲われた。


「家に帰りなさい。それがアナタがとれる最善の方法です」


ここで家に帰れば丸く収まる?
……いや、私はもうなにも信用出来そうにない。

妻もクラウン商会も母も何一つ、信じるべきものはなかったのだ。


「私に真実を教えて下さい。
それが無理なら私を始末してしまえばいい。
どうせ、今の私には生きている理由はありません」

「思いきったことをおっしゃいますね。
具体的になにをお知りになりたいのです?」

「なぜ、クラウン商会はボランティアを始めたのか。
そして、なぜ今はカルト集団などと呼いるのか。
全てを、教えて下さい」


能面のような固まった表情をこちらに向けて、男は少し考えているようだった。
しかし、結論がでたようだ。


「お話しできないこともいくつかあります。
それでも私の話が聞きたいなら、ついてきなさい」


男はくるりと背を向けて、遊園地の奥へ進んでいった。
私は後を追うことにした。
そんな私の背後で、門が閉まる音がした。
作品名:ゴキブリ勇者・ピエロ編 作家名:オータ