ゴキブリ勇者・ピエロ編
「バカなことは言わないで。アナタ正気なの?
クラウン商会は正義の味方なのよ?」
普段はおっとりして心優しい妻は、クラショーのことになると人が変わる。
彼女の家も親がクラウン商会の人間で、徹底した教育を受けているらしい。
私の一番の敵は、彼女かもしれなかった。
「私は真実を知りたいんだ。
それは君のためにもなると思ってる。
お腹の子のためにも、このままじゃダメなんだよ」
「真実なんて、そんなものは分かりきっているじゃない。
クラショーは救世主の集まりよ。
世の中の愛と幸福のために、日々走り回っているはずでしょ。
私のお父さんやお母さんだって、毎日人のために生きているはずだわ」
「それは分かってる。
でも、前に私の母の話をしただろ?
母の最期の言葉を、私は忘れられないんだ」
「それは……でも、お母さまだって本当はそんなこと言いたくなかったはずよ。
きっと病気で錯乱状態になってたのよ」
「適当なことを言うな。これは私と母の問題だ」
はっと気がついて、妻の顔を見る。
妻の目は、私を蔑んでいた。
「いいわ……じゃあ、好きにしなさい。
でも、もうこの子と会う権利はなくなるってこと、忘れないでね」
「……私は、いつか君も分かってくれると信じてる。もう行くよ」
こちらを向かない妻に今までありがとうと言い残し、私は家を出た。
月が孤独な私を見下ろして、バカなやつだと嘲っているような気がした。
作品名:ゴキブリ勇者・ピエロ編 作家名:オータ