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ゴキブリ勇者・ピエロ編

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数ヵ月後、私と妻とタツヤ君は公園にピクニックに来ていた。
妻が席を外したので、私はタツヤ君と話した。


「タツヤ君はお父さんがいないんだよね」

「うん……僕が小さい内に死んじゃったってお母さんが言ってた」

「もし、おじさんがお父さんにしてって頼んだら、タツヤ君は許してくれる?」

「うーん……」

「やっぱり難しいか」

「ううん、ぎりぎりオッケー」

「あはは、ありがとう。光栄だよ」

「あら、二人でなんの話してるの?お母さんにも聞かせて?」


タツヤ君が複雑な顔をして黙るので、妻は寂しそうに笑った。


「お母さんにはないしょなのね。いいわ、サンドイッチあげない」

「違うの!おじさんがお父さんになりたいって言ってたから……」

「えっ?」


妻は私の顔を見た。私は目をそらさなかった。


「俺は、タツヤ君のお父さんになりたいんだ」


妻は目を伏せて、タツヤ君に噴水のそばで遊んでるように言った。
タツヤ君は素直に歩いていった。


「俺は真剣に考えているつもりだよ」


妻は目をそらしたまま、関係のないことを言った。


「アナタ、自分のこと俺って呼ぶようになったのね」

「ああ……やっと母さんの呪縛が解けたような気がするよ」


まだ少し寒いこの季節に、蝶がひらひらと舞っている。
あれはモンキチョウだろうか。
妻にはその姿は見えていないようだった。


「私……あんなに酷いことをしたのに、アナタに許されようとしてるのよ。最低よね」

「俺もそうして欲しいからいいんだ。
こんなしがないピエロとでよければ、もう一度一緒に暮らさないか?」

「アナタの優しさは嬉しいわ。でも……」


俺はバレないように深呼吸をして、気合いを入れた。
そして妻の肩を掴んで、強引にこちらに向けた。


「俺のために、自分を許してほしい。
俺は君が好きだ。君たちが大好きだ。
お願いだから一緒いてくれ」


分かりやすく、妻の顔は泣き顔に変わって涙がポロポロとこぼれ落ちた。
俺はそのまま、ずっと待った。


「……なにからなにまで、アナタに言わせて……ごめんなさい」


妻はずっと謝りながら泣いた。俺はそっと肩を抱いた。


「君が来てくれるまで、いつまでも待ってるから。ゆっくり、もとに戻そう。
もちろんタツヤ君も一緒にね」

「タツヤ君なんて呼ばないで……!
あの子にはちゃんと話すから……!
ごめんなさい……!」


春の気配を帯びた風が、ふんわりと通り抜けていく。
俺は息子と妻の顔を見ながら、穏やかな風を感じていた。
もうすぐ春が来ると、信じることにした。
作品名:ゴキブリ勇者・ピエロ編 作家名:オータ