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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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コーヒーの味。

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と困り顔をして聞いた。
お母さんは、
“この人はね、私のコーヒーより自分の入れたコーヒーの方が美味しいって言うのよ~。私の方が美味しいよねぇ~。”
と友達に言った。
友達は、
“えっ、これ美味しくないの?!”
と言ってもう一口飲んで、
“美味しいわぁ~。どうして美味しくないとか言うの?!”
と逆に私が悪者のようになってしまった。
それでも私がまだ飲まないのでお母さんがまた言うので、私は渋々飲んだ。
私が感想を言う前に、お母さんは勝ち誇った顔をして、
“どうなのよ~。美味しいんでしょ~。素直に言いなさ~い。”
と言って来た。
私は予想通りだった。
首を横に振りながら、
“美味しくない。”
と私は一言言った。
お母さんの表情が一気に険しくなり、
“みんな美味しいって言ってくれてるのに何であなたは美味しいって言わないの~っ!!コーヒーの味が分からないんじゃないの!!”
と言う始末。
それでも私は首を横に振った。
それを見てお母さんが、
“今日はもう良いから、今度また友達が来た時にあなたが作って出しなさい!!そこまで言うんだから、ちゃんと作りなさいよ!!”
と言った。
友達は状況が分かったらしく、いつもの私たちのやり取りなので笑っていた。

次の日、お母さんが、
“あなたのコーヒーは美味しいんでしょ?!じゃあ、作ってみて。”
と偉そうに言って来た。
私の器具が全て揃ってるわけではないので、お母さんの持っている道具の範囲で作り始めた。
私の横でお母さんは睨むように目を逸らすことなく、見張るように私の動作を見ていた。
フィルターの中の豆にお湯を注いで、しばらく蒸していた時、急にお母さんが、
“うわっ!!匂いがする…。何これ?!…えっ?!作り始めからこんなにコーヒーって香りが出るの?!”
と慌て出した。
お母さんから険しい表情が消えた。
その代わりその言葉で私の方が険しい表情になって、
“ええ、そうですけど!!”
と言った。
コーヒーにお湯を注ぎ始めてから、お母さんの表情はまたみるみる内に罰が悪そうになって行った。
そして口数は減って、
“香りが良い~。”
と言いながら、ひたすら湯気を匂っていた。
出来上がったコーヒーをコップに注いでいる時、お母さんが、
“コップに入れるだけなのに、入れ方にもやり方があるの~?!”
と言って来た。
私はコップに注ぐ時には、コップもコーヒーサーバーも同じ角度くらいに傾け合って、液体の音が出ないように優しく注ぐようにしている。
出来る限りコーヒーにストレスを与えないようにしている。
そして出来上がったコーヒーをお母さんに出した。
お母さんが飲もうとしたので、
“違うーーーっ!!”
と私は叫んだ。
お母さんは慌てて飲みそうになったコーヒーを口から離して、オドオドしながら、
“何々?!”
と言った。
“湯気を匂って。それから湯気を食べてみて。”
と言ったら、お母さんは首を傾げながら、
“湯気を食べる?!…どういうこと?!”
と言うので、
“自分が思う通りにどうでも良いから食べてみて。湯気に味があるから…。”
と言ったら、お母さんは自分の思う通りに湯気を食べた。
見事に驚いた顔をした。
“何これ~?!湯気に味がある~!!…美味しい~。”
お母さんは何度も湯気を食べてはそう言った。
そしてやっとコーヒーを飲んで良いと私が肯くと、お母さんは初めての一口を大事に口に含んだ。
口に含んだ瞬間まだコップから口を離してもいないのに、お母さんの目が驚いたように見開いた。
なのでコーヒーがこぼれそうになった。
“うわぁ~、全然味が違う。今まで飲んだことのない味。何これ~。…同じ豆なのに…、どうして…。”
お母さんはそう言いながらも、また一口また一口と飲み進めた。
“どうしたらこんな味になるの?!喉を通って行く感じも全然違うし…。美味しい~。”
めちゃくちゃ味わいながらお母さんはそう言った。
私はそうでしょうそうでしょうと肯いていたけど、
“そうじゃない!!私に何か言うことがあるはずっ!!”
とお母さんの感想を遮った。
お母さんはすぐに気付いたらしく、
“あっ、すみませんでした。あなたの方が美味しいです。もうお母さん、自分のが飲めなくなりました。あんなコーヒーを人に出してたと思うと…恥ずかしい…。”
と認めてもらえた。

それから数日後に、お母さんの友達が遊びに来た。
お母さんは私にコーヒーを入れるように言って来た。
そして友達には、
“娘のコーヒー飲んだら驚くよ!!今まで私のコーヒーが美味しいって言ってたけど、全然違うから~。”
と言っていた。
そんなにハードル上げると大変になることにお母さんは気付いてない。
友達もコーヒーなんてどれも同じくらいにしか思ってないから、軽く考えていた。
私はこの前と同じようにお母さんの道具で出来る範囲のコーヒーを作った。
そしてお母さんの友達に出して、友達が飲もうとした時に、お母さんが、
“違ーうっ!!最初に飲んだらダメーっ!!先ずは湯気を食べて。”
と早速私のマネをした。
別に友達にはそこまでしなくてもいいのに…。
友達は意味が分からず、
“何言ってるの?!湯気を食べる?!どうやって?!”
と聞いて来た。
だから言わんこっちゃない。
でもお母さんは私が言ったまんまをマネて友達に湯気を食べさせた。
“湯気に味があるの分かる?!”
とお母さんが聞くと、友達は目を丸くして、
“はぁ~、本当ねぇ~!!湯気に味があるわ!!”
と言って何回も湯気を食べていた。
そしてまた同じようにお母さんが、
“湯気の味が分かったら、飲んで良いよ。”
と言った。
友達がコーヒーを一口飲んで目を見開き黙った。
“ねっ!!凄いでしょ?!こんな味のコーヒー飲んだことないでしょ?!でもこれこの前私が入れたコーヒー豆と同じ豆なの。ねっ、驚くでしょ?!私、コーヒーの概念が変わったの~。”
お母さんがそう力説しながら友達は肯いていた。
そして、
“今までことちゃん(仮名;お母さん)のコーヒーが一番美味しいって言ってたけど、取り消す。あなたのコーヒーはもういらないわ。こっちの方が良い。”
と言い出した。
お母さんはその言葉に怒るかと思いきや、
“でしょ~。私もそう思ったの。今まで偉そうに出してたけど、これ飲んだら出来ない。恥ずかしくなってきた…。”
と言った。

その時、お母さんにコーヒーの入れ方を毎日教えた。
そしてお母さんは、
“よしっ!!もうこれで覚えた~!!次にあなたがお母さんのコーヒーを飲む時は、お母さんの方が上手になってるからね!!”
と言い出した。
私がここまで出来るようになるのに十年掛かったのに、お母さんは一ヶ月も練習してないのそんな言いようだった。
そしてすぐに偉そうになる。

それから私が旦那さんの元へと帰った後、お母さんから自分の作るコーヒーの自慢が毎回電話にかかって来た。
作ったコーヒーを飲む時に電話はかかる。
“美味しい~~~。あ~、美味しい~。あなたのコーヒーに勝ったかもしれな~い。あ~、美味しい~。お母さん、お店出せるかも…。”
と上から上からの自慢が私の耳に降り注いだ。
私はその電話を目を細くして無言で聞いていた。
私が一言、
“それはないよ。”
作品名:コーヒーの味。 作家名:きんぎょ日和