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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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コーヒーの味。

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私がコーヒーを飲み始めたのは、中学・高校の時で、ストレートで飲んでいたら自分でコーヒーを入れるなんてならなかったのかもしれない。
その頃の私のコーヒーの飲み方は、たっぷりの砂糖にこれまたたっぷりのミルクを入れて甘~く甘~くして飲んでいた。
お母さんはそれを見ていつも、
“あなた、絶対病気する。そんな飲み方するならコーヒー飲むの止めたら?!”
とか、
“そんな飲み方してたら死ぬよ!!”
とか言われていた。
その頃の私からしたら、大きなお世話といつも言い返していた。

でも私には疑問があった。
こんなに苦いコーヒーを砂糖も入れずによく飲めるなぁ~と。
そんなコーヒーをお母さんだけじゃなく、コーヒー好きの人たちは美味しい美味しいと飲む。
それが信じられなかった。

そして私の二十歳の誕生日にお母さんから、コーヒー豆を砕くミルとコーヒーサーバーが贈られて来た。
私は思った。
世界中で美味しいと言われるコーヒーなのに、どうしてこんなにも私にとって美味しくないのか…。
ならば自分で美味しいはずのコーヒーを自分で入れようじゃないかと…。
自分の舌が肯けるまでのコーヒーを求めてみようじゃないか…とそう決めた。

いろんなコーヒーの入れ方を調べてみた。
ちょっとの違いで、細かく味が違う。
しかし苦いだけのコーヒーを私は飲みたくはないので、その毒味担当となったのはもちろん旦那さん(彼氏)だった。
旦那さんはとってもコーヒーが好きなので、全く文句を言わなかった。
いろんな味のコーヒーが飲めるので、逆に喜んで引き受け飲んでくれた。
私は飲まないので、ひたすら湯気を匂うばかりだった。
温度の違いでも匂いは変わるし蒸す時間によっても匂い方は変わる。
豆の砕き方、粗いものから粉に近い細かさまでも匂いは変わる。
やってみて、こんなにも奥が深いものかと頭を悩ませることは何度もあった。
始まったばかりなのに、その場に足踏みの時もあれば、足が止まってしまう時もある。
初めはお金がないので、安い豆を使っていた。
安い豆なのにも関わらず、匂いの幅は半端じゃなかった。
一応、出来たコーヒーも飲んでいたけど、もちろんそれは砂糖たっぷりミルクたっぷりの甘~いコーヒーだった。
それでしか私は確かめなかった。
そんな飲み方なのにも関わらず、細かく味が変わるから奥が深いコーヒーが不思議だった。

たまに旦那さんは私に言う。
“もうコーヒーをストレートで飲んでみてもいいんじゃないかなぁ~。”
と。
その言葉に何度騙されたか…。
なので私は二十代前半は数えるくらいしかストレートで飲んでいない。
それも一口、二口ほどの量だった。
それから旦那さんは二~三年何も言わなかった。

それから有名チェーン店のコーヒー豆にはまってみたりする中、たまたま入った喫茶店のコーヒーがとても美味しかった。もちろんそれにも砂糖たっぷりミルクたっぷりだった。
旦那さんは言う。
“お店の人に失礼。”
だと…。
そこの味は今までと違った。
帰りに豆を買って帰った。
家で入れてみた。
匂いも味も今までと全く違う。
旦那さんも同じ感想だった。
でも私はストレートでは飲まなかった。

そして私が二十八才の時、旦那さんに、
“もうそろそろストレートで飲んでみてもいいんじゃないの?!この豆は今までとは違うから飲めると思うよ。”
とまた言い出した。
そんな旦那さんを私は睨んだ。
しかし続けて旦那さんは、
“騙されたと思って飲んでみてよ!!”
と諦めない。
なので私は騙されることを前向きにそーっと飲んでみた。
小さじ一杯も口には入れていなかった。
騙されるはずが私は首を傾げた。
その瞬間旦那さんはニヤ~っと笑って、
“もう一回飲んでみて。”
と勧めてきた。
なので私は疑うことなく小さじ一杯以上を飲んだ。
“………美味しい…。”
と私の口から首を傾げながらその言葉が出た。
旦那さんは声を上げて喜んだ。
でも私は豆鉄砲を食らったかの如く目を見開いて旦那さんを見ていた。
そんな私を見て笑う。
その時のコーヒーはとても美味しかったと覚えている。
旦那さんに、
“今までこんな美味しい物を飲んでたの?!”
と私は聞いた。
旦那さんは笑顔で、
“そうだよ!!だから今まで言ってたでしょ。どう?!やっと美味しいって分かって?!”
と言うので、
“コーヒーって凄い…。”
と私は答えた。
旦那さんは肯きながら、
“良かった良かった。”
と微笑んでいた。

そしてこの時、私が求めていた、“コーヒーは美味しいはず…。”のスタートラインに辿り着き、そこから私のコーヒーの味の追求が始まった。

お母さんは私のコーヒーの飲み方にケチを付け続けて来たので、ストレートで飲む姿を見せてギャフンと言わせようと思った。
旦那さんもそれには乗り気だった。
そしてその瞬間が来た。
その時は私のコーヒーではなく、お店のコーヒーだった。
美味しいとは言えないけど、自分以外のコーヒーも飲めるようになっていた。
私はお母さんの目の前で堂々とブラックを飲んだ。
旦那さんはクスクス笑い続けていた。
お母さんが何も言わないので、私は二口目を飲んだ。
お母さんは私を見ているが何も言わない。
なので私はすぐに堪忍袋の緒を切って、
“私がブラックでコーヒーを飲んでるのに、何も言わないのーーーっ!!何か言ったらっ!!”
と思いを突き付けた。
そんな私に相反して、
“えっ?!…ブラック?!…あら本当…。”
と冷静以下に冷めた表情でお母さんはそう言った。
思い通りに行かなかったから私はイライラ、旦那さんはその状況全てに笑っている。
“もっと驚いたら!!”
とお母さんに言ってやったら、冷めたまま、
“ブラックが一番美味しい。”
の一言で終わった。
私はイラッとしたまんま、
“でもねぇ、私が作ったコーヒーの方が美味しいからねぇ~っ!!”
と言ってやった。
お母さんは冷静に、
“ふ~ん。でもね、お母さんが作ったコーヒーの方が美味しい。”
と言い返された。
私はイライラを畳み掛けられ、旦那さんはそれを見て笑っていた。

それから二年ほどしてお母さんの家に帰ることとなる日が来た。
そしてある日、お母さんの家にお母さんの友達が来て、お母さんがコーヒーを作って出した。
作っている工程を見ていた。
見ていて酷いと思ったけど、あれだけの態度でお母さんは言ってきたからまだ口を出さなかった。
でもお母さんは私のその気持ちを察することなく、偉そうな表情をして、
“お母さんのコーヒーは美味しいから。作るのも上手でしょ!!”
と言って来た。
私にケンカを売っているのだろうか…と頭を過るが我慢した。
そして友達に出しながら、私の方を見て、
“美味しいコーヒーをどうぞ。”
と言った。
私は笑わなかった。
お母さんの友達は、お母さんのコーヒーを美味しいと言って飲んでいた。
お母さんは顔で、“友達が美味しいと言ってるからお母さんの腕は間違いないよ!!”という表情を私に向けた。
でも私はまだお母さんのコーヒーに口を付けていない。
そんな私にお母さんは、
“早く飲んだら~。それともお母さんの方が美味しいから飲みたくないの?!”
と言って来た。
そのやり取りを友達は見て、
“どうしたの?!”
作品名:コーヒーの味。 作家名:きんぎょ日和