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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章   章末話   『サクラ咲く キミの待つ場所』

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まさに一触触発。
スキを見せたら最後と言わんばかりのただならぬピンと張り詰めた空気がこの2人を包み込むように、鋭い睨み合いがジリジリと火花を散らせていた。


「…2人とも、そこまでにして」


無表情なラディが2人の間に立ち、仲裁に入ってきた。


「何だよッ!!邪魔すんなってのッ!!!俺はこいつと今日こそ決着をつけるんだッ!!!どうした、怖気づいて女の影にでも隠れたくなったのか??この臆病者がッ!!」


気に障るような挑発な眼差しでそう言うロメル。
これに、ティエルはとうとうキレた。


「上等だおらぁあああああああッ!!!テメェから先にぶっ殺してやらぁああああああッ!!!!!!いい加減その気に食わねぇツラに風穴あけてやんぞッ!!!!うおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」


その瞬間、ティエルの腰に下げていた剣を抜き、ラディの脇をすり抜け、ロメルに突っ込む。間合いに入るとティエルは懐に踏み込み、一気にその剣を振り抜いた。


「我が命に応え、覚醒せよッ!!ジャスティスッ!!!」


閃光の輝きと共にティエルの手に黄金の剣が現れ、それを硬く握り、もの凄い速さでロメルに迫っていった。

途端に黄金の剣には邪気を纏ったような禍々しいどす黒い影で覆われ、まるで見ただけで、いやこの空間にいることさえ許さないような存在感、圧迫感があった。

だが、それに動じることなくロメルはフッと不敵に笑みを浮かべる。


「へッ!!ぶっ潰してやんよッ!!」


対してロメルもその手に剣が現れる。
銃器のような形をした黒剣。
剣先は銃口、側面は鋭く研ぎ澄まされた刃が光り輝く。


「蜂の巣にしてやんぜッ!!ダダダダダダッ!!!!」


連発される魔力の銃弾はティエル目がけて放たれる。


「そんなぬるい豆鉄砲、避けるまでもこいつ使うまでもねぇっ!!」


地を蹴り、粉塵が舞う。
もの凄い勢いで銃弾を避けることなくその中へ突っ込んでいく。
だが、銃弾は当たることなく、ティエルに触れる前に弾き砕け散っていった。
殺意に満ちた毒々しい眼光がキッと光り、その勢いから剣を大きくなぎ払う。

が、ロメルの反応速度が上回ったのか、予測されていたのかが幸いし、ロメルはそれを受け止めようとした。

力の激しいぶつかり合いで、瞬間的に空気が大きく震えたように見えた。


「な、何ぃッ!?」


「ハァ、ハァ…っ!!」


なんと、ラディが両者の間に入り、双刀の剣で受け止めていたのだ。


「…いい加減にして。こんな下らないことで任務失敗するつもり??」


言い返す言葉もなかった。
なぜなら、それはさっき俺が言っていたことだったからだ。
一時の感情に身を任せ、怒り狂ったおかげで俺は理性を、本来の目的すら失うとこだった。


「…ティエル、ロメル。目を覚ましなさい、あなたたちが今、何をすべきか何を為すべきか今一度、思い出しなさい」


俺の目的??俺の為すべきこと??
そんなこと言われなくてもわかっている。

それが俺にとって全てであり、そのために俺は今ここにいることも。


「あぁ、そうだったな」


「…思い出した??」


「おかげさまでな。ありがとよ、ラディ」


「…いい。それよりもここから離れないと。敵影5、A級魔術師が約1分30秒後にここにやってくる」


「チッ、やっちまったな。今のでフォーリアのボケ共が来ちまう。急いで場所を移すぞ」


「…ロメルもいい??」


「チッ!!しょーがねぇな。目的遂行前にヘマするわけにゃいかねぇ!!」


ティエルとロメルは剣を転送し、建物をつたって、素早くその場から去る。
そのほんのわずかな刻で、城下警備の魔術師たちがやってきた。


「おい、こっちだ。この辺りが大型な魔力感知した地点だ」


「…ん??おかしい、何もない……ようだな。そっちの方はどうだ??」


「ダメだ。大型魔力の反応消失。くそ、何なんだ一体!!どうなってる??ライブラリーを照合。くそ、どれも一致しないッ!!これは明らかにこの国に不法侵入者が潜入してるってことだぞッ!!!」


「あぁ、これは一大事だ。すぐに宮殿へ戻り、セシル様に報告せねばッ!!」


そう言って、その場から慌てて離れていった。
馬鹿なヤツらだ。もう遅い、いくら足掻こうが貴様らは何もできはしないさ。

そう、もう誰も止められはしない。
これから始まる第二幕殺戮戦争【大魔法戦争】はな。
城下町を見下ろしながら、嘲笑に歪んだティエルの顔は踵を返し去っていく。



(………)



ティエルたちは、気配を消しながらゆっくりと城壁に近づいていた。
あらかじめ送り込んでいた諜報員の情報を元に、非常時の逃避経路がある秘密の入り口を見つけ出していた。

見張りに見つからないよう細心の注意をはらいながら近づく。
どうやら情報によると城壁のある一部の石版を押し込み、城内部からも同じ石版を同時に押し込む必要があるようだ。

ちらりと時計に目をやった。
それは、ミッション開始時刻1分前を示していた。
目を閉じ、心の中で時を数える。

3、2、1…。

押し込んでみると、変化が起きた。
何もないその壁が途端に、光輝き、光の線でドアの形を描き、しばらくするとそこに入り口が現れた。


「フン、くだらねぇ。これでセキュリティが万全だと本気で思ってんのか?? とんだお笑いモンだぜ、欠伸がでるぜ」


フォーリアのヤツなんて、マヌケなもんだ。
ティエルが冷たく言い放つと、ロメルは同意するかのように続く。


「まぁ、ヤツら聖人君主のお人よしの甘ちゃんだからな。どんな相手でも信用しちまうんだろ??そこに付込んで信じ込ませちまえばチョロイもんだぜ」


つまらなそうに互いに言い、ラディも黙ってこくりと頷く。


「…同意。だから私たちが近づいても気付きもしない」


「まったくだ。久々のミッションがまさかこんなショボイもんじゃ欲求不満になりそうだ」


「…ティエル…欲求不満…なの??」


ラディは無表情でこくっと小首を傾げる。


「ん、あぁ??まぁな」


「…そう。……ぽっ」


わざとらしく妙な効果音を言い放ち、無表情でこれまたわざとらしく恥ずかしがるような仕草をする。


「うっわぁ…」


わけもわからず、子犬ちゃんにゴミを見るかのような哀れな視線を向けられた。


「…言葉のアヤだ。そーいうのじゃねぇよ」


「…そう」


どことなく残念そうにそう言う。
こいつは無表情だからどこまで本心なのか、冗談なのか長い付き合いの俺でもわからん。

まぁ、そんなことはこの際今はどうでもいい。
俺はただ、何も考えずこのミッションで戦果を挙げればいいだけのことだ。
この俺の強さをヤツらに見せつけてやればいい。

俺をヤツらに認めされてやればそれでいいんだからな。
んで、まともに俺の専属の隊を持てば、あとは…。


「…ティエル」


ふと声がしたので、目をやるとラディがドアに指差していた。


「…行く」


「あぁ、今行くよ」


無駄のない動きで彼らは順に、ドアを開いて城内に潜入する。
そこには、送り込まれていた諜報員の姿があった。