小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

D.o.A. ep.58~

INDEX|7ページ/50ページ|

次のページ前のページ
 



航海は順調に続き、ようやくアルルーナの玄関口・スタイン港町へと到着しようとしていた。
大きな嵐に遭うこともなく、こんなに何事もないのは久しぶりだ、と船員たちは安堵したが、最後の最後で厄介事に出くわした。
常ならば、海賊旗を掲げていても、堂々と船を港へ横付けている。
しかし今回は、ネイラ海賊団をしてそれが難しいほどに、港を警備する船が多いようだった。

「アルルーナ海軍ですね」
洋上にひるがえる軍旗を双眼鏡で確認しつつ、船員が眉を寄せる。
アントニオ船長はそのとなりで、まだ点にしか見えないそれらを睨みながら思案していた。
もしこのまま船団の間を通り抜けていけば、不審船として捕まり、中をさぐられ、言い訳できないほど積み込まれた財宝を見つけられるだろう。
決して無辜の民から略奪したものではないが、返さずに自らの収入としているのだから、結局は同じことだ。
長い航海で船員たちも疲労し、久々の上陸を楽しみにしている。
やはり面倒事は避け、海賊旗は下ろしておき、目立たぬようすみのほうへこっそり停泊させるしかあるまい。

「面舵いっぱい! 無用ないさかいは起こしとうない。…見つからんように、こっそりいくで」







久々にしっかりとした地に足を着けることができ、人心地つく。
海賊団の面々は、一週間ほど滞在し、食料や生活用品を買い込んでから、海洋冒険を再開するそうだ。
別れの挨拶は町を離れるときに行うとして、今はとりあえず町へとくり出し、宿を探すのが先決だ。
ライルもやっと船医に認めてもらい、包帯ぐるぐるまきから解放され、体が軽くなった気分で伸び上がる。

初めての外国。
未知の国、アルルーナ。
とにもかくにも、暑い。
ロノアの真夏日以上の気温だが、じめじめした暑さではないことが救いだ。
燦々と輝く日差しが容赦なく降りそそぎ、体を常時焼かれているような熱にさらされる。
熱風にまじる砂塵に目をしばたかせた。
青空に映える白塗りで統一された異国情緒溢れる町は、活気に満ち、旅人や地元の人間で賑わっている。
市場の、とれたての食材、武具、衣服、アクセサリー、動物、よくわからないものが所狭しと並んでいる光景は、財布の紐をつい緩めてしまいそうなほど魅惑的だ。
人種も衣装も多種多様であるが、ほとんどが風通しのよさそうな衣類をまとっていた。
今の格好は浮いているかもしれない。なによりこもる熱は耐え難い。

「いや、一時はどうなるコトかとヒヤヒヤしたぜ。ま、案外ザル警備だったけど〜」
「ロノア海軍相手だったら、今頃みんなお縄だな」
「……」
「弓兵くん、だいじょぶー?」

なんとなく男三人寄って町を歩いていたが、不意にライルが立ち止まる。
何事か、と二人が振り返ると、彼はグラーティスを半眼で見据え、口をへの字に曲げた。

「一緒に行くって、了承してない」
「かてェこと言いなさんな。細かいこと気にしてちゃモテねえぞう」
「関係ないだろ」
「…それにさァ、オレ気付いちゃったんだけどォ」

にたりと意地の悪い笑みを張りつかせながら、もったいぶったように間をつくっている。
なんだよ言いたいことがあるならはっきり言えよ、とライルが苛立ちはじめると、

「――――おめぇさんがた、今、文無しだよネ」
「………あ」

なぜだか、今の今まで頭からすっぽり抜け落ちていたことを、指摘された。
それはもしかすると、現実逃避だったのかもしれない。
けれどどいずれ、宿のフロントで、あるいは市場で気付き、恥をかくとともに、先行きの暗さに絶望しかねない問題だった。
仕方がないではないか。金を持ち出すひまなどあるはずがないのだから。
彼ら二人の財産は現在、ロノアの銀行の金庫、もしくは防衛拠点の町で厳重に保管されている。
なんにせよ、今ここになければ二進も三進もいかないのだから、いかに大切にされていたところで意味がない。

「このままじゃあ、泊まる宿も食うものもないよねぇー。一文無しじゃ意地も張れねぇ。金がすべての世の中さぁ。
世知辛いけどコレが現実なのよ、哀しいね」

憐憫の滲んだような口調で言われずとも、痛いほど理解している。
生殺与奪とまではいかずとも、今後金銭を得るまで、この男には逆らえないことになってしまうのか。
なにやら無性に口惜しく、下唇をかんで震えていると。

「――――アルルーナ王女・シューレット殿下、まもなくご帰国ー!」

高らかに告げる一声によって、人の流れが一気に変わった。







作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har