D.o.A. ep.58~
「へ、成金の割にゃー、いい趣味だ。オレもいつかこんな屋敷買ってハーレムつくってリッチに過ごしてぇなあ」
「どうでもいいこと言ってないで、はやく行こう」
「見張りがたくさんいるわ」
小高い丘にそびえる、高く堅牢な門構えと、白亜の壁の豪奢な邸宅は、こんな時分でさえなければ鑑賞に堪えうるほど壮観だった。
街の兵隊と同じ装備を身に着けた警備の兵が隙なく周囲を警戒しており、家主の用心深さが見て取れる。
命を狙われるような事をやっている、という自覚はあるのかもしれない。
「こんな真夜中までご苦労さんって感じだぜ」
「どうやって侵入したらいいかしら」
「気を付けながら壁を登るか、警備の兵を全部やっつけるか、かな」
「もっとアタマ使えアタマ、肉体労働を最小にする為の頭脳労働を惜しむべからず、これ人生の極意」
「…何かいい策が?」
黒煙がもくもくと広がり、焼け焦げた臭気が漂ってきて鼻をつく。
黙して職務に励んでいた警備の兵たちは、一転騒然となり、状況確認に躍起となった。
「なんだ!火事か?」
「今この屋敷にはあのお方もいらっしゃるのだぞ!速やかに火元を突き止めて消し止めろ!」
「火元…う、裏だ!裏の方から煙が…」
がっちりと警戒していた兵は焦る声と共にどんどん姿を消してゆき、残ったのは落ち着かない様子で佇む二人だけとなった。
グラーティスはその様子を眺めながら、悪人じみた顔でほくそ笑むと、煙に咳き込んでいるライルの背中を叩く。
「―――さ、出番だボウズ」
不安げに視線を彷徨わせる兵士二人に忍び寄ると、背後から手を伸ばして口を塞ぎ、各々手早く意識を刈り取る。
作業の完了を見届けて、レリシャが物陰から出てきた。屈みこんで、兵士の懐をさぐっている。
「ケケケ、うまくいったぜ。さあ、グラーティスさまの智略を存分に讃えるがよい」
「ゲホ…、古今東西使い古された手だけど…大火事になったらどうすんだ」
「だいじょぶ、だいじょぶ。―――んじゃあ、さっさとこいつらの装備剥ぎ取っちまおうぜ」
「早く。ぐずぐずしていると戻ってくるわ」
促すレリシャの手には、銀色の装飾の施された鍵があり、それを門の穴へ差し込んでいる。彼女の手際の良さに少々面食らった。
(…リノン。あとちょっと我慢しててくれ。すぐに助けに行く)
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作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har